今日もギルドは平常運転だ。掲示板ではあれこれと相談し合う声がし、テーブル席では昼間っから酒盛りを始めているパーティもいて賑やかだ。
フランはテーブル席に腰を落ち着けながら、アルタイルの話に耳を傾ける。
「カルロがまたやらかしたらしい」
「あー、受付嬢さんと話をしていましたが、カルロさんのことでしたか……」
カルロがまた群れを狩りたいと駄々をこねてしまったようだ。ハムレットがどうにか落ち着かせて今は一緒に行動している。その場に居合わせなくてよかったとアルタイルは話した。
「アルタイルさんは別にカルロさんが嫌いってわけではないですよね?」
「嫌いだったらあいつに付き合っていない」
あいつは確かに難があるが、話は通じるし、実力はある。認めるところはあるので嫌うことはない。
アルタイルは「あれに付き合える人間は限られているがな」と、カルロの性格は人を選ぶことを理解していた。
フランは悪い人でないのは感じ取っていたので、嫌いだとか面倒だとかは思っていなかった。実力があるのは実際に見ているというのもある。
「あぁいう子供っぽいところが女性受けしないのだとハムレットは言っていたな」
「それは……確かに」
子供っぽいよりは大人の落ち着きある男性のほうが女性受けは良いだろう。格好いいのに勿体無いなとフランは思ってしまった。
悪い人ではないけどもとフランがフォローを入れるが、アルタイルは「あの子供っぽいところが足を引っ張っている」と容赦ない。
「容赦ないですね……」
「そこはフォローできないからな」
「それはそうか……。あ、そうだ。師匠にいろいろ言われてましたけど、大丈夫でしたか?」
カルロのことを話していて思い出した。師匠もアルタイルのことを見ていろいろと言っていたなと。
睨み合いにもなっていたのでフランは気分を害していないか不安だった。けれど、アルタイルは「特には」と気にしていないと答えた。
「娘のように可愛がり、弟子として育ててきたのであれば心配するのは当然だろう。その気持ちは悪いことではない」
可愛がっていた娘のような弟子が何処ぞの男とパーティを組んでいるというのは、何かあったかもしれないと不安になるものだ。
だから、あぁいった対応をされるのも理解できるし、仕方ないと納得もできる。アルタイルは「むしろ、しないほうがおかしい」と話す。
それはそうかもしれないなとフランも思った。でも、弟子の話も少しは聞いてほしかったなとも考えてしまう。
「なんか、勘違いして帰っていった気がする……」
「それは勘違いさせたままでいいと俺は思う」
「何故?」
「別に害があるわけでもないからだ」
不利益となるものであれば訂正するべきだが、今回のはそうではないとアルタイルは主張した。そうなのかとフランはうーんと考える。
(あれ、付き合ってると思われた気がするんだけどなぁ)
不利益かと問われると、そうではない。そうではないが、付き合っているわけではないので訂正するべきな気がしなくもない。どうなのだろうか、これは。フランは答えがでずに呻る。
アルタイルはそんなフランを機嫌良さげに眺めていた。この反応も彼にとっては癒しになるようで、フランは「よく分からないなぁ」と思う。
「小動物ってよくいますけど、私ってどれに近いんですか?」
なんとなく気になったことを聞いてみた。アルタイルはそうだなと少し考える素振りを見せてから「リスだな」と答えた。
「リスが頬袋に食べ物を詰めている感じに似ている」
「私、そんなに頬張ってないですけど!」
そんな食べ方はしてないとフランが突っ込めば、「癒しの感覚がそれに似ている」と返ってくる。
どうやら、リスが頬袋に食べ物を詰めている様子で癒されるのと同じということを言いたいようだ。
「癒しになるのかぁ……なるほど」
フランはふと、アルタイルはどの動物に似ているだろうかと彼を見た。普段は落ち着いていて、戦いになると迫力がある。でも、癒されている時は上機嫌を隠さない。
(うーん、犬とは違うよなぁ。狼? いや、猛禽類のような瞳だし、どちらかと言うと鷲とか鷹っぽい)
戦う姿は獲物を狩る時の猛禽類のようではあるなとフランは一人、納得する。
「カルロさんは……」
「犬だ」
「そ、即答だぁ」
アルタイルの素早い回答にフランは笑ってしまった。確かにイメージには合っている。ハムレットにも言われていたらしい。
「本当に仲良いですよね、三人」
「そこは否定しない」
彼らは各々がどういった性格か、戦闘スタイルがどうなのかをちゃんと理解し、受け入れている。
だからこそ、気軽に話すことができるから悪い中ではない。アルタイルは「そこが良い」と話した。
「フランは姉妹弟子とはどうだろうか」
「メルーナちゃんとは今は大丈夫ですよ!」
いろいろあったけれど仲直りしてからは会えば世間話をするし、近況を報告し合っている。たまに愚痴も聞くぐらいだ。
「この前の師匠たちが来た時だって帰ってからは『騒がしくしてごめんなさいね』って、わざわざ謝ってくれましたし」
「人というのはちゃんと反省することができるということか」
フランからメルーナの話を聞いてアルタイルはなるほどと頷く。それはアルタイルが反省していない人を多く見てきたことが察せられた。
いろんな人間がいるので仕方ないことなのかもしれない。それでも、メルーナに対しての警戒心が少しでも解けたようでよかったとフランはほっと息をつく。
「フランに友人がいることは良いことだ。女性同士でしか分からない悩みなども聞いてもらえるだろうからな」
「それはそうですね。メルーナちゃんと仲直りできてよかったです」
「俺の事は気にせずに彼女と話をしに行くといい」
「ありがとうございます。ところでアルタイルさん」
「なんだろうか」
「受付前でカルロさんが騒いでますけど」
急に騒がしくなったギルドの受付へと目を向ければ、盛大な駄々こねをしているカルロと、それを宥めているハムレットの姿があった。
アルタイルもその様子を眺めているが何とも面倒そうである。けれど、無視しても突っ込まれるだけだというのは分かっているようだ。
仕方ないなとアルタイルが立ち上がったので、「やっぱり優しいよなぁ」とフランはその様子を見て思った。