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第73話 依頼のない日の出来事①

「えっと、魔法も同じで得意な属性や苦手なものってあるんですよ」



 フランはそう言ってフルーツを食べる。今、フランはギルドの奥のテーブル席でアルタイルに属性魔法について教えていた。


 教えるといっても専門的なことではなく、得意な属性を見極めるやり方を簡単に説明しているだけだ。



「自分の得意な魔法ってあると思うんですよ。アルタイルさんの場合は破裂とか、稲妻とか。破裂の場合は闇属性、稲妻は雷属性。なので、アルタイルさんは闇と雷の属性が得意だと思います」



 夜闇の魔法も闇属性に分類されるのでとフランが教えれば、アルタイルはふむと顎に手をやった。それから「斬撃は風属性だな」と自分の戦法を思い返す。


 それにフランが「風属性もある程度は使えるということですね」と答えた。こういう複合で使える属性が多い人はいると。



「全てをまんべんなくっていうのは難しいので、得意な属性魔法を中心に身につけていくというのが殆どです。私も風と氷を中心に教えてもらいました」


「水や雷も使えるだろう、フランは」


「使えますけど、得意な属性よりは覚えている魔法は少ないです」



 得意な属性と合わせられるように基礎の魔法は覚えている。あとは、応用できる中級魔法などをいくつか身につけておけば、対応ができるとフランは答えた。


 あれもそれもと欲張ってしまってはどれも中途半端になってしまうのでオススメはしない。


 フランは「得意な属性を伸ばして、それと相性の良い属性魔法をいくつか覚えておけばいいです」と、魔法を覚える時のアドバイスをした。



「アルタイルさんは闇と雷が得ですからそっちを伸ばしていいかと」


「苦手なものを克服しないほうがいいのだろうか?」


「苦手なものは諦めて、そこよりも別のほうに力を入れたほうがいいです」



 苦手なものを克服することが悪いわけではない。けれど、その労力を得意な属性や、それと相性の良い属性に割いた方が実りは良い。これは師匠に言われたことだった。


 もちろん、克服したいのであればチャレンジしてみてもいい。でも、それができる人というのは他の属性魔法のことを熟知しているということだ。苦手なものの勉強ばかりしても、克服することはできない。



「二属性が得意でさらに別属性もある程度、扱えるなら魔導士としては合格だって師匠は言ってましたから、アルタイルさんは大丈夫ですよ」



 特級魔法も使えるのだからとフランが言うとアルタイルさんは納得したようだ。このままでも問題がないのであれば、無理して覚えようとはしないと。


 必要に応じて魔法は習得することにする。そう決めたアルタイルにフランは少し役に立てたようで嬉しかった。


(ちゃんと、勉強していてよかった)


 師匠の教え方は少々、難しかったけれどしっかり勉強していたようかったなと、フランはヴェラードに感謝する。



「アルタイルさんにも師匠っているんですよね?」


「あぁ。いるがあの人は俺が一人立ちした日に亡くなっている」



 アルタイルの師匠は彼が一人前として認められ、旅立つ日に亡くなったらしい。病気と戦いながらそんな様子を一切、見せずにたった一人の弟子を育て上げて。


 師匠は最後まで何も変わらなかった。アルタイルは「だから、悲しくはなかったんだ」と懐かしむように話す。


 それは辛い思い出というわけではなく、今でも感謝しているようだった。きっと良い師匠だったのだろうなとフランはそう感じた。



「師匠には魔法も教わったが、剣術を中心に教わってきたんだ」



 魔法も剣術に合わせるものが多く、魔導士的な知識などはあまりないのだという。どちらかというと、剣士のほうが向いていると師匠には言われたらしい。だから、魔剣士にしては剣術が中心なのかとフランは納得した。



「得意を伸ばすは師匠も言っていたので、フランのアドバイスにも納得ができたんだ」


「あ、そうだったんですね」


「あの人も苦手なものは苦手だと割り切っているタイプだったからな」



 剣術にとって致命的なものであれば治すが、そうでないのならば無理して矯正させることはしなかった。そこに割く時間を別の事に使った方がいいと。


 なので、フランのアドバイスには納得ができたし、師匠のことを思い出して懐かしくなった。アルタイルはそう言って小さく笑んだ。


 アルタイルの落ち着いた時に見せる笑みというのは好きだった。頻繁に笑うようなタイプではないけれど、たまに見せるその表情は目を惹く。


(よく似合っているなぁ)


 フランはそう思ったけれど、言ってしまったら気にしてしまうかもしれないなと黙っておく。自然に見せてくれるほうが安心できるからと。


 ぱくりとフルーツを頬張ってフランは「お役に立てたみたいでよかった」と微笑み返した。そうすれば、アルタイルは何とも言い難い表情を見せながら呻る。



「不意打ちは反則だと思う」


「なんか、それ前にも聞いたような気がします」


「破壊力がある」


「それも言われましたね」



 アルタイルは口元を押さえながら何かを堪えていた。何度か見たことがある光景にフランは動じないが不思議に思う。彼の感覚はよく分からないなぁと。


 自分の事を気に入ってくれていることも、小動物のように可愛がられているのも最近になって理解できたが、この反応はよく分からなかった。


(好かれてはいるんだよね。可愛がられてるってことは)


 嫌われてはいないのだけはヴェラードとの言い合いで把握してはいる。可愛がられているということは好かれてはいるのだろう。


(アルタイルさんのことは嫌いじゃないし、二択ならば好きになるけれど……うーん。でも、挙動がおかしいのは相変わらずなんだよなぁ)


 今のような時や、急に意味の分からないことを言ったりだとか。とにかく言動がおかしくなる時がある。別に変人だとは思ってはいないが、まだ理解できていない部分があるなとフランは申し訳なくなった。


(少しずつ頑張ってみよう)


 フランはそう決めてアルタイルへと目を向ければ、まだ挙動がおかしかったので、治まるまでフルーツを食べながら見守っていた。


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