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第69話 再会してしまった


「メルーナ!」


「ひぃっ! お、お父様っ!」



 ばっと後ろを振り返ってメルーナは父を確認すると、フランの後ろへと隠れた。恰幅の良い少しばかり年が老けている男が駆け寄ってくる。その後を青年が着いてきて、フランは「婚約者さんだ」と彼のことを思い出した。


 リグレーという青年は見た目は爽やかなで、大人しく見える。ダークグレーの少し長い髪を一つに結った彼はメルーナに「どうして隠れるんだ」と、悲しげな顔を向けていた。


 メルーナはリグレーの性格と相性が悪かった。彼は一途で心配性、メルーナは束縛が嫌いで自由でいたい。これのせいで言い争いが多く、彼女は嫌になってフランを誘って冒険者になるためにこの町まで逃げてきたのだ。


 今だって「五月蠅いわね!」とメルーナな喧嘩腰だ。フランはなんとか落ち着かせようとするも、メルーナは警戒する猫のように呻っている。



「メルーナ。やっと見つけたぞ。ほら、冒険者なんてやっていないで、村に帰ろう」


「やっぱり、連れ戻しに来たのね! 残念だけれど、わたくしは冒険者として優秀ですの」



 メルーナは自分がAランクの冒険者であること、遠征などの依頼も受けていると、ギルドでの功績を父・アンダーに説明した。


 それを聞いて嘘だろうと言いたげにしていたが、話を黙って聞いていたアルタイルが「本当だ」と頷く。



「彼女は確かにこのギルドでAランクの冒険者として認められている。主に護衛等の依頼をメインにしたパーティだ。冒険者としてやっていけているのは事実だろう」


「あんたは誰だ」



 アンダーが怪しむようにアルタイルを見た。その露骨な態度にアルタイルは「このギルドに所属しているハンターだ」と冷静に答えた。


 ハンターというのはアンダーもリグレーも知っていたのだろう。本当にいるかといったふうにアルタイルを凝視している。


 そんな視線をアルタイルは気にする様子でもなく、「何も知らないのに決めつけるのはよくない」と指摘した。



「お前は彼女の父なのだろうが、娘がこの町でどれほど活躍し、冒険者としてやっていけているかは調べるべきだろう。何も知らずに決めつけるというのは無知で傲慢なだけだ」


「それは……。でも、娘が危険な目に遭うかもしれないというのは不安にもなるだろ!」



 冒険者など怪我だけでは済まないことだってあるかもしれない。どんなに活躍していようとも危険な目に遭う可能性を考えれば、不安にならないわけがないとアンダーは主張した。


 アルタイルは「理由を変えただけだろう」と言葉を返した。冒険者としてやっていけているのを知って、別の理由を見つけただけだと。



「危険な目に遭うかもしれなくて不安という気持ちを否定するつもりはない。だが、何かと理由をつけて連れ戻そうとしか考えていない。彼女の気持ちなどに一切の配慮がされていないと俺は感じるのだが、違うか?」



 メルーナ自身の気持ちなど知ろうともしていないじゃないか。アルタイルの指摘にアンダーはそれはと口ごもる。その通りなのだ、彼は娘の言い分を聞こうとはしていなかった。


 それにはリグレーも言い返せないようだ。フランはアルタイルに同意するように頷いてから、「メルーナちゃんの話を聞いてあげてほしい」と二人に伝える。



「メルーナちゃんは自分の意思で冒険者になったんです。理由はどうであれ、メルーナちゃんは逃げずに頑張って、Aランクの冒険者にまで成長したんですよ。メルーナちゃんの人生はメルーナちゃん自身が決めることだと思います」



 娘の事が心配であることは理解しているつもりだ。けれど、彼女の人生までも決めつける必要はない。


 相談に乗っていく分にはいいが、「お前はこうしたほうがいい」と決めつけて、それ以外を認めないというのはおかしい。


 自分の人生は自分で決めるべきだ。フランの言葉にアンダーはメルーナを見る。彼女はじっと強い眼で「わたくしはここで冒険者として生きる」と宣言した。



「わたくしの実力を認めてくれたギルドに、支えてくれたパーティの仲間のためにも。それにわたくしに合っていますもの」



 魔物を狩るのは苦手であるけれど、それも今は勉強している。誰かを守るということも、人との触れ合いも、魔法だって、自分にとって合っていたのだ。


 メルーナの言葉にアンダーは眉を下げた。それでもやはり、心配であるようで、それはリグレーもだった。メルーナは「わたくしは結婚なんてしないわ」とはっきり言い切った。



「そこまで言い切るのなら、諦めたほうがいいぞ、アンダー殿」


「ヴェラードさん……」


「ひぇっ、師匠……」



 ゆっくりとやってきた初老の男がアンダーの後ろから顔を出した。長い白髪を流す、目元が鋭い彼がフランとメルーナの師匠、ヴェラードだ。


 深い緑の外套を着直しながらヴェラードはフランに「久しぶりだね」と声をかけた。思わず、フランはびしりと姿勢を正す。



「お、お久しぶりです……」


「全く。本当に出て行くとは……。心配させおってからに。まぁ、いい。これも成長としてみよう。さて、フランはどうなんだ」



 メルーナのことは聞いたがお前はどうなのだ。そう問うヴェラードの眼は鋭く、少しばかり恐怖を抱く。


 こういう時はまだ怒っているのだとフランは知っていたので、「私も冒険者として頑張っています」と、すぐに答えた。



「準Aランクの冒険者で、ハンターであるアルタイルさんと一緒に魔物討伐の依頼を専門にやっています」


「ハンターと?」



 ヴェラードは片眉を下げてフランの傍に立っていたアルタイルを見た。彼は「俺だ」と何か言われる前に一歩、前に出る。



「フランとパーティを組んでいる〝パートナー〟のアルタイルだ」



 自身がこのギルドのSランクの冒険者であり、ハンターであることを再度、説明してからアルタイルは「フランは冒険者として問題はない」と言った。


 魔導士としての力量は充分にあり、考えて行動できる判断力がある。魔物の知識も勉強し、身につけていっているので、魔物討伐の冒険者としては申し分はない。


 アルタイルの話にヴェラードは疑っている様子ではないものの、何か思うことがあるようだ。


 アルタイルはそれに気づいたようで、「彼女の体質のことだろう」と、問われる前に言う。それも問題はないと。



「確かにフランの不運や不幸を呼ぶ体質というのは珍しく、それは戦闘だろうと対人だろうと出てしまう。けれど、解決できないほどではない。戦闘で出るならばそれを俺は利用できるし、フランも対応できるようになってきている」



 対人であれば話をすることで解決することもでき、そうでないのならば第三者に協力してもらうこともできる。


 そうだろうと、アルタイルはハムレットを見た。彼は自分に話が振られるのを分かっていたのか「そうだな」と頷く。



「依頼人とのトラブルや、冒険者同士のいざこざならギルドが介入してくれるから問題はないぜ。それ以外ならばおれやハンターが居るから、協力体制はできている」



 アルタイルとハムレットの話にヴェラードは納得はしたのだろう。今度はフランへと目を向けて、「お前はどうなんだ」と問う。


 冒険者として生きるということは危険を伴うことになるのだ。それに耐えることができるのかをヴェラードは問うている。フランは師匠なりの心配であるのを察して、「大丈夫です」と答えた。


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