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第68話 まさか、見つかるとは……


 お昼を過ぎた頃、フランはギルドで休んでいた。午前中はアルタイルと共に魔物討伐の依頼を受けていたが、思った以上に早く終わったのでこうして休憩している。


 フルーツをもぐもぐ食べていればアルタイルに凝視されるのはいつものことだ。もうすっかりと慣れてしまったので気にすることもない。そんな様子をハムレットが果実水を飲みながら観察していた。



「すっかりこの光景に慣れたなぁ」


「ハムレットさんも慣れましたか」


「毎回、ギルドで会えばこうだから嫌でもなれるぜ」



 飽きもせずにフランの食べる姿で癒されているのだから。ハムレットがそう言えば、「飽きないが?」と、真顔でアルタイルが返事をした。それはもう素早く。その勢いにハムレットは若干、引いている。


 フランは可愛いと言われたことを思い出して、一瞬だけ気が散りそうになった。冷静になって思い出すと、かなり恥ずかしいことをアルタイルは言っているなと思ったのだ。


 言われ慣れていない言葉なのでフランも動揺してしまうのだが、相手は動じていない。これの何処が飽きるのだと言いたげにしているではないか。


 その圧をハムレットが「はいはい」と受け流す。何を言っても無駄であるのは長い付き合いなので分かるのだ。アルタイルはまだ言いたげにしていたが、フランの食べる姿を見る方が良いとまた目を向けてきた。


 フランが本当に飽きないのだなぁと、のんきなことを思っていた時だ。勢いよく肩を叩かれた。



「フラン!」


「ふぇ? あ、メルーナちゃん」



 なんだと後ろを振り返れば、言葉にしがたい形相のメルーナが立っていた。兎の耳のように結われた金糸の長い髪を揺らして、彼女はフランの肩を揺る。



「アナタ、何処に今は住んでいらして!」


「え、え? ギルドが提供している宿舎ですけど……」



 フランは準Aランクに上がったので、ギルドが提供している宿舎を最近は利用していた。ギルドと提携している宿屋よりも安くて綺麗だからだ。それを聞いてメルーナががっくりと肩を落とす。


 顔は焦ったようで、どうしようと声が震えている。何かあったのは聞かなくても分かることだ。だから、フランは「何かあったんですね?」と話しを聞くという姿勢を取った。


 そうするとメルーナは涙目になって「フランぅ」と手を握ってくる。それは彼女が不安や困っている時の仕草だ。



「お父様がこの町にやってきてるみたいでぇ」


「……は?」



 お父様というと、メルーナの父親か。あれ、彼女は親が決めた婚約者と結婚したくなくて、わざわざ遠いこの町まで逃げてきたのではなかったか。フランは「えぇっ!」と思わず声を上げてしまった。


 居場所などは知らせていないはずだ。メルーナの父は婚約者のことを気に入っていたので、結婚させたがっていたのをフランは見ている。場所など知られれば、連れ戻すために飛んでくるはずだ。


 長くこの町にいるが音沙汰もなかったのだから、フランはメルーナが両親に何も教えていないことは理解できた。



「どういうことですか! 居場所を伝えていなかったら、こんな離れた町にいることなんて、知られないはずでは……」



 此処は周囲を山に囲まれているような立地なのだ。わざわざ山を越えてまで遠いこの土地に来ることなどあるだろうか。


 旅行という可能性がないわけではないが、メルーナの様子を見るに違うようだ。それは彼女が「あの嫌な男も一緒に居た」という言葉で察する。



「街の人に私の事を聞いていたみたいで……。ギルドに所属していることを知られてしまったみたい……」



 午前中に此処を訪れていたらしいと受付嬢から聞いて、メルーナはどうやって逃げようか、隠れようかとフランに相談しようと声をかけたということだった。



「大人しく故郷に帰る選択はないのか?」


「嫌よ! それに師匠も一緒だったらしいから、私が帰るってなったら、フランも一緒よ!」


「えーーっ! 師匠も一緒なんですか!」



 師匠はフランにとっては親代わりのような存在だ。師匠が一緒にいるということは自分にも関係があるということになる。


 出ていく時にかなり怒られて、迷惑をかけたので見捨てられたと思ったのだがとフランは師匠の行動に驚いた。「もう知らん!」と、怒鳴られたからだ。



「ヴェラード師匠はフランのこと娘のように可愛がっていたもの。きっと心配になって連れ戻しにきたのよ!」


「それは困る」



 メルーナの言葉にアルタイルが言った、それはできないと。フランは自分のパートナーであり、他所に出すつもりは無いと、顔を少しばかり怖くしながら。


 アルタイルはこの町のギルドに所属するハンターだ。ここから拠点を移すことは難しいのでフランに残ってもらうしかない。そう話しながらフランの腰に手を回す。それは逃がさないと言っているはのようでフランは慌てた。


 ここまで露骨な態度をアルタイルはしてこなかったからだ。手放したくないという感情が伝わってきて、どういう反応をすればいのか分からずフランはおろおろしてしまう。



「フランちゃんは戻りたくない感じか?」


「え? そうですね……せっかくやっていけるようになってきましたから……」



 最初の事は苦労もしたし、売られそうにもなったけれど、今はアルタイルと一緒に冒険者として活動している。自分のこのよく分からない不幸体質も、ポジティブに考えることができるようにもなったのだ。


 準Aランクにも昇格できて、魔物のことも勉強している。美味しいものも食べられるし、不自由はしていない。むしろ、自分が成長しているという自信が身についていくので、村に戻りたいとは思わなかった。


 それを聞いてハムレットは「じゃあ、説得するしかないか」と言う。まだ、連れ戻しに来たとは決まったわけではないが、もしそうならば、説得するしかないだろうと。



「説得、できると思いますか……メルーナちゃん?」


「お父様、頭が固いから……でも、わたくしはもうAランクの冒険者ですし……」



 あの時はお前のような子が冒険者になどなれるわけがないと反対されたのだ。けれど、今はAランクの立派な冒険者として成長できている。反論はできなくなし、実力を認めてもらえるはずだ。


 師匠であるヴェラードは成長を認めてくれるので、その辺りの指摘は受けないだろう。ただ、心配をしないわけではない。



「お父様、心配症だから……」


「そうだよなぁ。パーティに女子一人だけって、男親からしたら心配だよな」



 パーティの仲間としても恋愛感情を抱かないとは限らない。そこで何かあるのではと不安を抱く親というのはいるだろう。


 嫁入り前の娘となれば特に。ハムレットの言葉にメルーナは「そこですわぁ」と頭を抱えた。



「別にわたくしたちのパーティに恋愛感情とかはないのにぃぃ」


「そうなのか」


「レナードさんは恋愛に興味がなくて、ラッシュさんは女性関係で揉めてからもう付き合うのは嫌だってなったタイプですのよ」



 レナードもラッシュは女性受けしそうな容姿をしているが、恋愛に関しては良い思い出がないのだという。


 レナードは恋愛に関して全く興味がなく、ラッシュの女性関係で揉めたのも見てか、自分に恋人を持つのは無理だとなったタイプだった。


 ラッシュは前述の通り、揉めに揉めてしまってからは、「恋愛は懲り懲りだ」と嫌になったタイプで、二人ともメルーナに対してそういった感情は抱いていないのだと教えてくれた。



「妹感覚ですわね、わたくし。わたくしもお二人にそういった感情はいだいてなくて、普通に接するから平気みたいですの」


「なるほど。まぁ、女の子の恋愛絡みの恨みって怖いからなぁ」



 嫌になって生涯独身を貫く男がいるというのをハムレットも聞いたことがあるようだ。それならそこを説明すればとも思うが、そう簡単に信じてくれるかは分からなかった。


 さて、どうしたものか。フランたちが考えていると――聞き覚えのある声がした。



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