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第64話 なんとなく察することはできた


 それはそれは嫌そうにアルタイルは足元で土下座をするハムレットを見つめる。そんな視線など気にもせずに彼は「ハンター、助けてくれ」と顔を上げた。



「断る」


「せめて、おれの話を聞いてからにしてくれない? ちょっと優しくしてくれよ」


「お前に向ける優しさは欠片ほどしかないが?」


「フランちゃん贔屓やめろや、ハンター」



 もう少し友人にも優しくしてくれと訴えるハムレットにアルタイルははぁと溜息を吐く。こうなると五月蠅くなるのを理解しているようだ。話は聞くといったふうに彼のほうへと姿勢を向けた。


 あ、ちゃんと話は聞いてあげるのだなとフランはその様子を見て思う。なんやかんや、アルタイルは世話してくれるよなぁと。



「カルロがやらかした」


「面倒くさい」


「それな」



 カルロがやらかした。その一言で全てを察したのか、アルタイルは面倒くさいと露骨に顔に出す。それにはハムレットも同意なようでうんと頷いていた。


 なんだろうか、このカルロに関しての別の意味での信頼感は。フランはそれを感じつつ、ハムレットの言葉を待つ。


 ハムレットが言うには、複数の多種スライムが村のほうに出没しているという討伐依頼を受けた冒険者たちがいた。暫くしても完了報告がないので様子を見てきてほしいとカルロは言われたのだという。


 ただ、対話能力に難のあるカルロを一人で行かせるのは心配だと、受付嬢に頼まれてハムレットも一緒についていった。そこまではよかったのだが、村まで行ってみれば冒険者たちが困ったように相談していたのだ。


 なんだと聞いてみれば、「追い払うことはできたが、倒せていない」ということだった。村のはずれには山に繋がる森があるのだが、そこに逃げていったのだという。暫くは村にはやってこないだろうけれどと、パーティのリーダーだろう冒険者の青年は言っていた。


 けれど、村人たちは「ちゃんと倒してくれ」と願う。依頼も討伐となっているので、倒さないわけにはいかない。ただ、深追いして返り討ちに合うというのも考えられた。多種スライムは通常種と違って属性魔法を使えるので油断はできない。


 パーティのリーダーである青年の判断は間違いではない。深追いがどれだけ危険なのか、冒険者として知っておくべきだ。とはいえ、依頼は完遂しなければならないのでどうするかと、パーティメンバーと相談していたということだった。


 多種スライムは五匹いたが深手を負わせたものが何匹かいると教えてくれた。五匹と数を聞いてハムレットは嫌な予感がした。


『え! 五匹もいるの! 狩るの楽しそうじゃん!』


 カルロは目を輝かせていた、楽しげに。ハムレットは暴走する前に止めようとするも、彼は聞く耳を持たずに多種スライムが逃げていった森のほうへと走っていってしまったのだ。


 あぁとフランは納得した。カルロは複数匹を相手にするのが好きなタイプだ。五匹もいれば楽しめると思うよなと。ハムレットは「テンション上がったあいつを止めるのを手伝ってくれ」と言って立ち上がった。


 アルタイルの返事など聞くよりも早く、彼の腕を掴んで引っ張っていく。それはもう慣れたように。アルタイルも返答をしても断れないのが分かっているようで、嫌そうではあるがハムレットに着いていっている。



「やっぱり、仲が良いですよね?」


「ハンターは面倒見がいいもんなぁ?」


「そうだな」



 有無を言わせないハムレットにアルタイルは返事を諦めていた。それでも怒らないあたり、面倒見がいいのは本当なのだろう。フランも「私の事も面倒見てくれているもんな」と、実感している。



「あいつのことだから多種スライムを狩った後、他の魔物も探しにいくぞ」


「知っている」



 この前は別の冒険者が受けていたボアーの群れの駆除を横取りしてしまったと、苦情がきたとアルタイルが言えば、ハムレットに「あのバカ」と呆れていた。


 二人の様子を見てか、赤毛の受付嬢が「カルロさんをよろしくお願いしますね」と声をかけてくる。


 その慣れた対応によくあることなのは見て取れる。フランは別の意味での信頼感が凄いなと少し面白かった。



「カルロさんを止めに行くのって何度目ですか?」


「フランちゃんは今まで食べてきたパンを数えているか?」


「あー、はい。それだけで察しました」



 一度や二度と行ったことではないのはその一言で分かる。ハムレットも、アルタイルも嫌でも慣れるといった態度だ。「フランちゃんも慣れるよ」と、軽い感じでハムレットに言われて、それは良いことなのだろうかと突っ込みたくなった。



「あいつが面倒なことをしてないことだけ祈っておけ」


「考えるだけで胃痛だよ……」



 うぅとお腹を押さえるハムレットに不安は少しばかり同情してしまった。それでも見捨てない彼も優しいなとも感じながら。




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