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第59話 信頼しているからこその指示だった


 バラバラになった身体にジャイアントスパイダーの死を確認する。アルタイルが太刀についた体液を払うように軽く振った姿にフランはほっと息を吐いた。


 無事だったことに安堵して駆け寄れば、彼は太刀をじっと見つめている。



「どうかしましたか?」


「これは使えないな」



 もう切れ味が落ち切っているとアルタイルは答える。どうやらジャイアントスパイダーとの戦いで限界がきてしまったようだ。


 それはもう使い物にならないということだろうかとフランが不安げに見遣れば、「メンテナンスを受ければ問題ない」と返す。


 この太刀は魔力石を使った特殊な刃を持っている。普通の太刀ならばもう使い物にならなくなっているだろうが、これはそうではないと教えてくれた。再び魔力石を打ち込めば力が宿り、刃も元に戻ると。


 魔力石ってそんな作用もあるのだなとフランは話を聞いて思う。魔法に使うぐらいしか知らなかったので勉強になった。



「いやー、最後はヒヤッとしたけど、上手く利用したな、ハンター」


「あ、そうだ! その……」


「最後の攻撃はよくできていた」



 フランが謝ろうとするのを遮るようにアルタイルが話す。ジャイアントスパイダーを打上げた瞬間、僅かに隙ができた。


 そこを突くことで最小限の力で止めを刺すことができたのだと言われてフランはえっとと、言葉を悩ませる。


 フランにその意図はなかったのだ。むしろ、あれは不運だったとフランは思うけれど、それによって戦況が好転したということになる。自分も少しは役に立てたのだと、良い方向に考えることした。



「つか、よくあの指示だけでどうにかなると思ったよな、ハンター」


「俺は二人を信頼している」



 あの状況では説明をしている暇などはない。簡潔に現状を理解してもらえる言葉を選ばなければならかった。アルタイルは「あの一言ならばハムレットは気づくだろう」と言う。


 付き合いの長いお前ならば気づくはずだ。気づけばあとは二人に任せて自分は囮になればいいと彼はあの指示に籠められていた意味を伝える。


 ハムレットは「いや、気づいたけどよ」と頭を掻いた。他にもう少し言い方はなかったのかと言いたげに。



「あとはフランが現状を打破できる」


「え、私ですか?」


「あぁ、君は魔法に長けている。ジャイアントスパイダーの糸をどうにかできるだろうと」



 糸さえどうにかなれば自由に動くことができる。それを解決できるのはフランしかおらず、彼女ならば自分で考えて行動ができるはずだ。


 アルタイルに「君の判断力は長所だからな」と褒められて、フランは少し照れた。


 褒められ慣れていないのでこんな時にどう反応すればいいのかが分からない。けれど、自分もちゃんと役に立てていたのだと自信に繋がった。


(でも、慢心はしないようにしなきゃ)


 自信を持つのはいいが、慢心してはいけない。調子に乗って痛い目に遭う人間というのは多いのだ。



「おれがいたからいいけど、フランちゃんだけならもう少し言葉を選べよ」


「当然だ。その時はそうする」


「お前、ほんっとフランちゃんには優しいよなぁ……。はぁ……まぁいいや。とりあえず、商人たちを町まで送っていってやろうぜ。荷物も無事だったみたいだしな」



 アルタイルは「周囲を確認してからだ」と、ハムレットに言葉を返してからジャイアントスパイダーがやってきた方へと歩き出す。残党が残っていないか見に行くようだ。


 確認は大事だよなとフランもその後に着いていくと、ハムレットが罠がないかを確認しながら歩いていた。それを見て、そうだ罠があるかもしれないのかとフランはきょろきょろ見渡す。


 アルタイルが歩いている箇所に罠はないようだ。ハムレットも「この辺りは大丈夫そうだな」と言っている。フランも目を凝らしてみるが糸らしいものは見当たらない。


 少し進んだ先にジャイアントスパイダーが潜んでいただろう空間があった。枝葉が折られ、茂みは踏みつぶされている。


 ここで罠にかかる獲物を待っていたのだろうことは周囲に残った糸を見れば分かることだ。


 目を凝らせば薄っすらと光に反射する糸が見える。ただ、それだけで残党は残っていない。全てを倒しきったということのようだ。これならば戻っても問題ないだろうということだった。



「蜘蛛って糸の上にいるイメージでした」


「ジャイアントスパイダーは糸を張るが、その上にはいない」 



 ジャイアントスパイダーは周囲に糸の罠を張り、身を潜めて獲物がかかるのを待つタイプの魔物だ。


 糸の上を歩く蜘蛛の魔物も存在はするがこの辺りでは見かけないのだとアルタイルは説明してくれた。


 そうなのかと張られている糸を間近で観察する。少し太めの糸ではあるが近くで見ないと分からないほどの透明度だった。



「これってまだ罠は機能しているんですか?」


「してるぜー。今、確認した」



 フランの疑問にハムレットが答える。罠自体はまだ機能しているので迂闊に触らないようにと注意を受ける。ひぇっとフランは糸から離れる、触らなくても発動しそうで。


 アルタイルは周囲を見て回ったようだ。魔物が居ないので戻っても問題ないということのようだが、罠はこのままでいいのだろうかという疑問が湧く。


 それを察したようにアルタイルが「三日も経てば機能しなくなる」と教えてくれた。



「ジャイアントスパイダーの糸は三日で脆くなる。此処は山奥で人が滅多に入ることもないし、ギルドに報告して三日間ほど通行止めにしてもらえれば問題はないはずだ」


「なるほど」


「よーし。じゃあ商人のところに戻ろうぜぇ」



 あの人たちも不安だろうからなと言うハムレットに同意するようにフランは頷いて、商人たちを迎えに行った。



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