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第51話 実技試験開始


「不意打ちを成功させたいな」



 白い鎧の青年がそう小声で話す。フランも弓使いの少年もそれに同意するように頷いた。なら、どうするのがいいのか。白い鎧の青年が一つの案を出す。



「悪い内容ではないと俺は思うけど、どうだろうか?」


「うーん……少々、危険な気もしますが守りなら私もできますし……」


「一番、不意打ちが狙えるっぽいってぼくも思うかな」



 その案で行こうとフランと弓使いの少年が頷けば、白い鎧の青年は「では、配置につこう」と、物音を立てないように慎重に歩き出した。フランも弓使いの少年と一緒に白い鎧の青年とは反対の方向へと移動する。


 指定の位置について、弓使いの少年は深い呼吸をしてから弓を構えた。少しばかり震える手に力が籠められている。フランもロッドを構えて魔力を練る、いつでも発動できるように。


 弓使いの少年はきょろきょろと首を振るレッドスネークの一瞬の隙を見て、矢を放った。射られた矢は真っ直ぐレッドスネークの目を狙う。



「ギャァァアアァっ!」



 ざくっと矢がレッドスネークの左目を貫いた。悲鳴を上げながらもレッドスネークは身体を跳ねさせて茂みへと飛び込む。弓使いの少年へと牙を向けるも、風の盾によって吹き飛ばされた。


 フランの魔法によって茂みから出たレッドスネークが胴体を起こす瞬間、背後から一撃が加えられる。光の刃の斬撃がレッドスネークの赤黒い鱗に傷をつけた。


 背後からの攻撃に反応できなかったレッドスネークは地面に身体を打ち付ける。その隙を白い鎧の青年は見逃さず、切り込んだ。


 白い鎧の青年の案は弓使いの少年が気を惹き、その背後を取るというものだ。危険な作戦ではあるけれど、これはフランが守りの魔法を使えるから採用された。レッドスネークは見事に嵌ったが、ここからは問題だ。


 レッドスネークを地面に倒すことに成功し、優位に立った白い鎧の青年が剣を振るう。弱点である首根を狙った攻撃は当たるものの、深い傷とまではいかなかった。


 白い鎧の青年がもう一撃を与えようとして、長い胴体が動く。しゅぴんっと尾先が鞭のようにしなり、白い鎧の青年を弾いた。勢いよく飛ばされて、地面に叩きつけられそうになる身体を持ち直すし、立つ。


 起き上がったレッドスネークは鎌首をこれでもかと持ち上げて三人を威嚇した。片眼を潰されてもなお、戦意は喪失していない。むしろ、怒りをあらわにしている。


 弓使いの少年が白い鎧の青年を援護するように矢を射る。放たれる矢が赤黒い鱗に突き刺さるも、レッドスネークは怯まずに牙を向ける。フランが風の盾を展開し、守ればレッドスネークは「シャァァアアァァッ!」と怒鳴るような鳴き声を上げた。


 風の盾を破ろうとするレッドスネークの背後を白い鎧の青年が攻撃すれば、ぐるんっと身体の向きを変えて頭突きを食らわしてきた。それを避ける白い鎧の青年だが、レッドスネークの尾先がまた鞭のようにしなる。


 不意打ちを決めることはできたが、深手を負わせることに失敗してしまった。形勢は逆転はしていないものの、平行線だ。お互いが睨み合い、動きを見極めようとしている。


 レッドスネークは捕食した後というのもあり、動きは遅い。だが、それを補うように鞭のような尾先を使ってくる。いくら距離を詰めても、その頭部や牙で狙われてはそれも無意味だ。


(レッドスネークは火に耐性があるからそれ以外の魔法を使わないと……)


 フランはレッドスネークの動きを見ながら次の魔法を考える。今は弓使いの少年を守るために風の盾を展開しているが、ずっとそうしているわけにもいかない。支援をフランは担当しているので、白い鎧の青年の攻撃のきっかけも作らねばならなかった。


(レッドスネークは今、動きが遅いから……拘束ができれば……)


 風の渦による拘束ができるかもしれない。成功すれば、攻撃を仕掛けるチャンスだ。けれど、風の渦でレッドスネークを閉じ込めるのは難しいのではないかとも考える。


 翼のある魔物ならば、翼だけを閉じ込めることができるが、レッドスネークはそうではないからだ。


 尾先や胴体だけを拘束しても、頭部や牙がある。だからといって頭だけを拘束しても尾先があるのだから、どうすればいいのか悩ましい。


 フランがどう支援するかを考えている間も、白い鎧の青年は攻撃を試み、弓使いの少年は矢を射って援護をしている。


 レッドスネークはそんな二人の攻撃に声を上げながらも、反撃していた。白い鎧の青年へと狙いを定めているようで、支援をするならば今だろう。


(あ、そうだ。水球で頭部と尾先だけを封じることができれば!)


 風の渦でもできそうだが風圧が攻撃の邪魔をしてしまうかもしれない。だが、水球で包み込むならばその点は問題ないだろう。よしと、フランが魔力を練り直す――その時だった。


 レッドスネークの尾先が風の盾を壊した。びゅんっと風圧が押し寄せて、弓使いの少年とフランは後方へと吹き飛ばされる。地面へと身体を叩きつけられた衝撃でロッドが地面を打って、それは起こった。


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