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第49話 ランク昇格試験


「最近は上手く魔物と戦えるようになってきているな」


 依頼も終えた昼下がり、ギルドのテーブル席でフルーツを堪能していたフランは、そう言われてほへっとアルタイルへ目を向けた。彼は次の依頼をどれにするか考えているようで、依頼書にメモを書いている。


 成長しているということだろうかとフランは解釈して、「アルタイルさんのおかげです」と言葉を返す。


 魔物と上手く戦えるようになったのは、アルタイルが教えてくれたからだ。そうでなければ、自分は今頃どうなっていたか分からない。


 なので、感謝を伝えたのだがアルタイルにじっと見つめられてしまった。何かおかしなことを言ってしまっただろうかとフランは少し不安になる。



「えっと、どうしました?」


「いや、なんでもない。フラン、一つ報告がある」


「報告?」



 報告とはなんだろうか。次の依頼に関することか、それとも完了したものか。嫌な報告だったらどうしようとフランが身構えていれば、アルタイルは一枚の用紙をテーブルに置いた。



「ランク昇格試験……許可書?」


「フランのものだ」


「はい?」



 冒険者ランクの昇格には試験を受ける必要がある。さらにその試験に参加する場合は許可書が必要だ。大体は高ランクの冒険者の推薦や、ギルドでの功績、依頼完遂率などによってギルド長が判断する。


 その許可書がフランの元に届いたということは、Aランクへの昇格権を認められたということだ。


 フランは信じられないといったふうに許可書とアルタイルの顔を交互に見遣った。しっかりとギルド長のサインがされているのを確認して、本当であるのを理解したフランは「ど、どうしよう」と手を震わせる。


 ずっとBランクで一向に上がる気配などなかったというのに、いざそのチャンスがくるとどうすればいいのか分からない。


 Aランクへの昇格となると、試験は難しいはずだ。基準点を満たしたとしても、ギルド長に実力はまだないと判断されたら落ちる。


 自分自身に実力はあるのだろうか。考えれば考えれるほどに不安になってくる。そんなフランの心境を察してか、アルタイルは「難しく考える必要はない」と言った。



「一回目でランク昇格を目指さなくともいい。ただ、許可が下りているのであれば、参加してみたほうが勉強にもなると俺は思う」



 どういった試験なのかを知る機会にもなるし、勉強にもなることだろうとアルタイルに言われて、それはそうかもしれないなとフランは頷いた。


 一回目で昇格できなくても、チャンスというのは回ってくるのだ。なら、勉強だと思って受けるのも良いではないか。


 フランは許可書を手に取って内容を読む。試験は毎回、内容が違うらしく、今回は魔物の知識や戦闘などを重視されているようだ。


 最近、魔物が繫殖して被害が増えたことから、魔物討伐専門の冒険者を増やしたい目的もあるように感じられる。


 それに冒険者として活動しいていく上で、魔物は切っても切れない。魔物の知識があれば、護衛や、素材採取の依頼の時などに危険を事前に回避できる。


 魔物と戦う時だってその知識と、実力があれば問題なく倒すことができるのだ。



「魔物との戦闘で実力を見ることができるからな」


「確かに。うーん、魔物と何度か戦ってますから、そこは大丈夫かもしれないですけど……知識かぁ」



 魔物とはアルタイルと共に戦ってきていたので、ある程度のことはできるとフランは思った。前線で戦うのは無理でも、後方で支援はできる。


 魔物の知識についてはまだまだ覚えることが沢山ある。アルタイルに教えてもらいながら、自分なりに勉強していた。



「まだまだ知らないことってありますし……。戦闘も後方で支援するのは得意ですけど」


「そう難しく考える必要はない」


「そうは言いますけどね。うーん、そうだ。これってアルタイルさんが推薦してくれたんですか?」


「いや、受付嬢がフランの依頼完遂率と俺からの実践報告を総合的に見て、ギルド長に報告したんだ」



 フランの今まで受けた依頼の完遂率と、ハンターからの実践報告。それらを鑑みて昇格試験を受ける基準に達している可能性があると判断されて、ギルド長に最終的な判断を任された。


 結果、フランは試験を受けるに値する冒険者として選ばれたということだ。


 アルタイルは「俺と一緒にいたことで実力が上がったというのはあるだろう」と、ハンターと行動していたというのも結果として反映された可能性はあると告げる。


 けれど、自分から推薦はしていないことだけははっきりと断言した。



「基本的に俺から推薦することはしない。カルロもだ。ハンターから推薦してしまうと面倒なことになるからな」


「と、言うと?」


「贔屓しているなどと文句を言ってくる連中はいる」



 なんでこいつは推薦されるのだなどと文句を言ってこられても、面倒なだけで何の利益もない。なので、基本的に余程の実力者でない限りは推薦などしないのだと教えてくれた。



「俺はフランを気に入っている。これは贔屓していると周囲から見られるだろう。カルロも君のことを気に入っている、不服だが。その状態でどちらかが推薦をすれば、贔屓だと文句を言われてフランに何か良からぬことをする輩が現れないとも限らない。現に俺とパーティを組んでいるからと突っかかってこられただろう?」



 特にフランは不幸体質だ。対人関係でもそれは発動されてしまうので、どんな展開になるか読むことができない。


 そんな危険な目に合わせるわけにはいかないので、自分から推薦はしていないとアルタイルは話す。



「カルロにも注意している。これは推薦ではない」


「なるほど……」


「それにそろそろランクは昇格してもいいのではないかと俺は思った」



 フランは不幸体質が目立ちすぎているが、実力はそれなりにある。それはBランクでおさめていいものではない。


 ランクアップしても問題はないと、贔屓しなくとも感じたのだとアルタイルは「自信を持っていい」と言った。


 ポジティブに生きていこうとフランは少し前から決めていたので、アルタイルの言葉を素直に受け止める。


 不安がないわけではないけれど、一発で合格しようと思わずに、勉強しに行くつもりで受けてみようと。



「これって、集団試験ですかね?」


「あぁ。今回はフランを入れて三人に許可が下りているようだ」


「そうなんですねぇ」


「残念なことに俺は手伝えない」



 ハンターなので見学は許されるが手を貸すことはできない。アルタイルはなんとも残念そうに眉を下げていた。


 いや、手伝えたらいけないでしょうとフランは突っ込む。それでは試験の意味がないだろうと。



「心配しないでくださいよ。えっと、試験官はギルド長と受付嬢さんみたいですし。お二人とも強いですから」


「それはそうなのだが……」


「見学なんてしなくても大丈夫です!」



 ハンターが見学なんてしていては贔屓していると批判されかねない。フランは大丈夫ですからと笑ってみせた。そうするとアルタイルは「それは反則だ」と呟く。


 何が反則なのだろうとフランは疑問に思ったが、「気をつけるように」とアルタイルに言われて、また笑って返事を返した。


(ちょっと不安だけど、私一人ってわけじゃないし、大丈夫なはず!)


 大丈夫だと自分に言い聞かせて、フランは許可書に記載された注意事項を読み始める。そんな彼女をアルタイルは優しげに見つめていた。



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