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第48話 破壊力、とは


 フランはにこにこしながらフォークを手に持っていた。ギルドの騒がしい声など気にもすることなく、テーブル席に腰を落ち着けて。テーブルの上には艶のある苺のタルトが乗った皿が置かれている。


 さくりとフォークで切り分けて口に含む。苺の酸味とカスタードの甘味が丁度よく、とても美味しい。フランは目をぱっと見開いてからにへっと目元を和らげた。


 フランはフルーツが好きだが、それらを使ったケーキも好物だった。ただ、こういったものはそこそこの値段がするのでフランは自分から買うことをしない。


 それにフルーツはアルタイルに食べさせてもらっていたので満足していたこともあってかここ最近、食べていなかった。


 なら、どうして食べているのか。それはギルドの店員が「新しくメニューを追加したんですよ」と、教えてくれたのだ。


 ケーキは苺のタルト以外にもあったのだが、いつもフルーツを食べているフランを覚えていた店員が「どうですか?」と。


 苺はフランの好きなフルーツの一つで、タルトだって好きなケーキの種類だった。好きなものの詰め込みセットな苺のタルトは凄く魅力的だ。


 けれど、値段。苺はこの地域だと少し高くなるので、そこそこの値段となっている。


 フルーツの盛り合わせも値段はするが、比較的にこの地域では安いものばかりだ。苺のタルトのほうが少し高いぐらいである。


 うぅとフランが頭を悩ませていれば、アルタイルが不思議そうに見つめながら言ったのだ。「食べたいのならば注文すればいい」と。


 支払いをするのはアルタイルなのだから遠慮はする。とは言っても、彼は気にするでもなく注文をしてしまうので、フランはお言葉に甘えることにした。


 今、フランは注文してよかったと心の底から思った。これがもう美味しいのだ。苺の酸味がカスタードの甘味と合い、甘さも控えめで口の中でべたつくことはない。タルト生地も固くなくほどよくて食べやすかった。


 久々のケーキというのもあるかもしれないが、とにかく美味しい。フランの語彙力が低下するほどには。にこにこしながらも目元は和らいで、朗らかな表情をしているのだから、気に入ったのは言われなくも分かることだ。


 気分が良くなっていく感覚をフラン自身も実感して、今日はまだ頑張れそうだと苺をぱくりと食べる。あ、そうだお礼を言わないとと、フランがアルタイルのほうを向いて首を傾げた。



「アルタイルさん?」



 アルタイルが両手の肘をついてフランを凝視していたのだ。それはもうじっと見つめられていて驚いたほどには。どうしたのだろうかともう一度、呼ぶと深い、それは深い息を吐かれた。



「どうしましたか?」


「いや、これは破壊力があるなと」


「破壊力とは」



 何がとフランが問うも、アルタイルは「フランに問題があるわけではない」と答えるだけだ。


 いや、そういうことが聞きたいわけではないのだがと、フランが言葉を探していれば、彼は「もっと食べるといい」と言って、また一つケーキを注文した。



「え! この苺のタルトだけでも満足ですよ、私!」


「好きなものは遠慮せずに食べるといい」


「でも、いつも支払いはアルタイルさんじゃないですか」



 食べさせてもらっては申し訳ないのだというフランの主張に、アルタイルは気にするなとこの前にも言われた言葉を返された。


 気にするなと言われてもとフランは眉を下げるも、注文してしまった以上は残すわけにはいかない。



「フランの食べているところが見られるから問題はない」


「えっと、小動物みたいに見えるから癒しになっているってやつですかね?」


「そうだ」


「うーん、私ってそんなに幼く見えますかね?」


「そうは見えないが?」



 アルタイルの返答にフランは違うのかと首を傾げる。幼く見えるから小動物っぽいと例えられたのではと思ったのだが違うらしい。


 言葉の意味をそのままにとらえるならば、小動物っぽい顔をしているということになるのだがとフランはますます疑問を抱く。


 具体的にどの辺がとフランは聞いてみることにした。すると、アルタイルは「食べている姿だが」と即答した。迷うことなくはっきり言ってきたものだからフランは少し驚く。



「食べている姿が小動物に見えているっていうことでしょうかね……?」


「特定の動物というわけではないが、小動物は愛でたくなるだろう?」


「え? そうですね」



 兎やリスといった小動物は可愛らしいので愛でたくなる。その気持ちは分かるのだが、それと食べている姿にどう関係するのだろう。フランはうーんと考えながら苺のタルトの最後の一口をぱくりと食べた。


 考えている間もアルタイルは目を離すことがない。なんとも機嫌良さげにしているので、ますますよく分からなかった。



「癒されます?」


「かなり」


「アルタイルさんが良いなら私は問題ないですけど……」



 なんだろうなぁとフランが果実水を飲んでいれば、店員が「リンゴパイです」と注文されたケーキを持ってやってきた。それを受け取ってテーブルに置くとほんのりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。


 見た目も艶やかで絶対に美味しいだろうと見ただけで確信するほどだ。リンゴパイもフランの好きなケーキなので、わくわくしながらフォークを入れる。


 一口に切り分けて食べれば、リンゴの甘さとさくさくしたパイ生地が相性よくてフランは美味しいと頬に手を当てた。にこっと笑めば、げほっとむせる声がする。



「アルタイルさん?」


「……破壊力が凄い」



 アルタイルはむせながらも水を飲む。また破壊力って言ったなとフランはリンゴパイを切り分けてながらふと、一つの考えが浮かぶ。


(小動物は愛でたくなる……。アルタイルさんは私を小動物っぽいって言ったよな)


 そういえば、何度か言われていた。では小動物は愛でたくなるというのは――


(私を愛でたくなるってこと?)


 その考えに行きついてもフランの疑問は解けない。どうして愛でたくなるのだろうか、小動物っぽいからだろうか。


(小動物は可愛いから愛でたくなるけど……。いや、私が可愛いは無いか)


 じゃあ、やっぱり小動物みたいだからかな。フランはそう結論を出してリンゴパイを楽しむことにした。


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