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第47話 大人の駄々こねって凄いな



「やだー、やだー!」


「はいはい、駄々こねない」



 ギルドの中心で大人が盛大な駄々こねをしていた。床に倒れてばたばたと足を動かしながら「いーやーだー」と騒ぐ。


 子供でもしないのではないだろうか、これは。フランはテーブル席で椅子に腰かけながらその様子を眺める。


 自分も何かしたほうがいいのかなとフランがきょろきょろしていたら、アルタイルに座っていればいいと言われたのだ。ハムレットが何とかするからと。


 アルタイルも椅子に座っているのだが、カルロを横目に次の依頼書を確認していた。それはもう慣れている様子に、これはよくあることなのだなとフランは理解する。



「ぼくちん、真面目にやった! 魔物討伐の初心者ちゃん助けた!」


「そうだな、えらいぞー」



 よしよしとハムレットに頭を撫でられてカルロは「えらいでしょ!」と、得意げだ。とにかくハムレットは彼をあやしている。それはもう子供のように。


 なんだ、この光景は。フランの疑問に答えてくれる人はいない。周囲にいる冒険者もフランと同じようなことを思っているのだろう。なんとも言えない表情を向けていた。


 彼の主張を聞くに、〝自分は真面目に対応したのだからご褒美がほしい〟と言いたいようだ。何をしてほしいのかを問えば、「狩り!」と笑顔を向けられる。すかさずハムレットが任された依頼をやるように諭す。



「ぼくちんの分は終わったもんっ!」


「なら、少し休もうぜ? 今日はいっぱい頑張ったもんな」


「いやだー、いやだー」


「狩り狂もここまでくると病気だな」



 ぽつりとアルタイルが呟く。カルロの魔物を狩るのが好きというのは、彼から見れば狂人に見えるようだ。これは少しどころか結構、驚くよなとフランでも思う。狂っているように見えなくもなかったから。


 よしよしと頭を撫でながらハムレットがあやしてから暫くして、カルロはぶすっとした表情をしながらも駄々をこねるのを止めて、アルタイルの前に座った。



「諦めたか」


「ハムちゃんが一緒に依頼受けてくれるっていったから妥協する」


「ハムレット、頑張れ」


「お前も連れて行くからな、ハンター」



 お前だけ逃げるなと言われてアルタイルは面倒げに顔を顰めた。面倒なんだなとフランはその様子を見ながら果実水を飲む。


 カルロは不満げではあったが、アルタイルたちも一緒ということで機嫌を取り戻した。



「これって……」


「こいつが真面目な行動を取るとやる」



 真面目にやったのだからご褒美が欲しい。そう思うのは誰だってあることだが、カルロの場合は面倒くさい。


 人前で駄々をこねるし、ご褒美が「魔物を狩ること」だ。魔物討伐依頼というのはあるが、全てをハンターが独占できるわけではない。


 ハンター以外の魔物討伐専門の冒険者たちに譲ることもしなければならないのだ。特にカルロは下級魔物の群れを狩りたがる。それは他の魔物討伐専門の冒険者がよく選ぶ依頼だった。



「受付嬢ちゃんをこれ以上は困らせたくねぇからな。仕方なくだよ」


「お前は今はダンジョン探索の依頼がないから時間に余裕があるからだろう」


「それもある。今は護衛依頼とか、商業道の定期点検、山の調査をやってるな」



 ダンジョンなんてそう簡単に見つかるもんでもないからなぁ。ハムレットは「だから、魔物討伐に付き合うこともできる」と、頬杖をつく。もちろん、依頼料は山分けでと言って。


 なんとも慣れている二人の話を聞きながらフランはカルロを見た。彼はアルタイルが頼んでいたソーセージの盛り合わせをぱくぱく食べている。遠慮もなく摘まむ様子にふと、アルタイルが頼んだのに一切、手をつけていなかったことに気づいた。



「カルロさんってソーセージ好きなんですか?」


「好物だ」


「あぁ、なるほど……」



 カルロの機嫌を最後まで取るためにアルタイルが準備したみたいだ。ハムレットもやっと落ち着いたと息をつく。



「そういや、フランちゃんの不幸体質って今回はなかったな」


「どうでしょうか? この一連の出来事が不幸と言うか、不運っぽいですけど」



 ランク上がり立ての冒険者たちに絡まれたのだから、これを不運と感じることもあるのではないだろうか。それを聞いて「確かに」とハムレットは頷く。


 でも、アルタイルはそうは思っていなかったようだ。別に気にはしていないといったふうだった。



「対人関係でも起こるんだよなぁ。フランちゃん、大変だね」


「まぁ……慣れちゃいましたけど、今は大丈夫ですし」



 大丈夫ですよとフランは返事を返しながら、元気にやってますと胸を張った勢いでロッドが床に転がってしまう。あっと、フランが立ち上がってロッドを拾おうとして――滑った。



「ふえっ!」



 それはもう盛大に、つるりと足元を滑らせる。けれど、床に転がることはなかった。アルタイルがフランの身体を支えてくれたのだ。



「す、すみません! ありがとうございます、アルタイル……さん?」



 フランはアルタイルの膝の上に乗るような姿勢で、彼を見上げた。アルタイルは目を見開かせている。


 えっとと、フランは不思議そうにしながら彼の膝の上から降りようとするのだが、掴まれた腕を離してくれない。



「あの、アルタイルさん?」


「……あぁ、すまない」



 なるほどとぶつぶつ呟きながらアルタイルはフランの腕から手を離す。フランから目を離すことなく何か言っている様子にフランがあのとハムレットを見て、彼は首を左右に振った。カルロにいたっては爆笑している。


 三人の様子に状況が理解できていないフランがうーんと大きく首を傾げると、ハムレットが「気にしなくていいぜ」と言った。



「ハンターの発作みたいなもんだから」


「発作?」


「フランちゃんは気にしなくていいもんだよ」



 そのうち分かるから。ハムレットはそう笑ってから、隣で腹を抱えているカルロの頭をべしっと叩いて止める。


 気にしなくていいって言われてもなぁとフランは思いつつも、そのうち分かるならいいかと、深く考えるのを止めた。



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