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第41話 ハンターが下した評価

 ラッシュの一撃が尻尾に当たり、深く切り裂いた。岩石獣が怒りの声を上げて暴れ始めた。


 木々に身体をぶつけ、レナードに突進し、ラッシュに頭突きをする。大ぶりな動きなので避けられなくはないが、こちらの攻撃も当てるのが難しくなってしまった。



「岩石獣の尻尾を狙っていいのは〝睡眠時のみ〟だ」



 寝ている時は無謀な状態なので弱点の尻尾を狙われると痛み悶えて動けなくなってしまう。人間でいうところの寝起き状態で反応が鈍るのと同じだ。


 だが、起きている時に弱点を狙われると岩石獣は痛みで暴れ始めてしまう。


 こうなると寝ている時に中途半端な攻撃を受けて睡眠を妨げた時の、怒りの岩石獣と同じように暴れ始めて手が付けられなくなってしまうのだ。


 これでは正攻法での戦い方ができないので、リーダーの判断能力が試される。アルタイルは「彼の腕がどんなものかが分かる」と言って、レナードへ目を向けた。



「ラッシュ、オレから距離を取って相手の判断を二分させろ! メルーナは援護を頼む」


「はいっ!」



 ラッシュはレナードから距離を取るために反対側へと移動し、メルーナは再び水球を岩石獣へと放った。三か所から攻撃に岩石獣は首を振ってどちらを狙えばいいの混乱しているようだ。


 レナードを狙おうと走り出すも、メルーナの水魔法が飛んできて邪魔をされ、彼女を狙おうとするも、ラッシュの剣撃によって気が逸らされる。


 だんだんと岩石獣も訳が分からなくなってきてようで、ぐるぐると回り始めてしまった。これはチャンスだとレナードが動く。


 魔力を籠めて淡く煌めく剣を岩石獣の首根を目掛けて振り上げた。



「ギャァアア!」



 ぶんっと岩石獣は首根に剣が当たる前に頭を振った。かんっと固い額を剣が打ち、勢いでレナードの身体はよろける。それでも足を踏みしめることで態勢と整えた。


 ラッシュが気を引くように前に出れば、岩石獣が体当たりをしかけてくる。大降りになった動きに隙が見えて、レナードが再び魔力を籠めた剣で一撃を加えようとした瞬間だった。


 ぴしゃっと顔面に水を浴びて岩石獣はぐるりと方向転換する。狙いをラッシュからメルーナに変えたのだ。


 急な行動にラッシュは動けず、レナードがメルーナのほうへと駆け出す。メルーナは水の盾を生み出して岩石獣の突進を受け切るけれど、勢いは止まらない。重い巨体が水の盾を押し潰す。


 ぐにゃりと歪む水の盾にメルーナは足が震えていた。それでもロッドを構えて魔力を籠めながら魔法を展開している。


 レナードの攻撃範囲に入る手前で水の盾は崩壊した。あっとメルーナは目の前に迫る岩石獣の頭部を見て膝から崩れる。



「危ないっ!」



 レナードの叫びと共に突風が吹き抜けた。メルーナを守るように風の盾が岩石獣を抑え込んでいる。



「ふ、フラン……」



 メルーナは自分を守りながら立つフランの背を見て呟いた。フランは紫水晶のロッドを構えて風の盾を展開する。岩石獣の力に圧し負けないように力を籠めて、足を踏ん張りながら。


 そんなフランの背後から影が飛び出す。岩石獣の顔面を太刀で殴りながら地面に叩きつけた。

鈍く重い衝撃音を響かせて岩石獣は声なく鳴いて転がっていく。


 痛むだろう顔面をぶんっと振って岩石獣は起き上がり――一閃。認識するよりも早く、一撃を与えられる。薄い首根に深く入る太刀の刃が一気に引き抜かれた。


 鮮血が噴き出して地面を汚し、起き上がらせた身体はゆっくりと倒れていった。どすんと小さな土煙が風に流される。


 刃に付いた血を拭うように振ってアルタイルは太刀を納めた。目に見えぬ素早い動きに、レナードたちは唖然としている。


 フランはよく見る光景とは言わずも、アルタイルの戦い方を見てきているので、今回も凄いなと彼を眺めてしまっていた。



「一つ。魔物の知識の差がパーティ内にある」



 固まって動けないでいるレナードたちにアルタイルは言った。まず、三人ともの魔物への知識の差があると。


 レナードは眠っている隙に弱点である尻尾を狙うという知識があったけれど、ラッシュはそれが〝睡眠時のみ〟だということを知らなかった。



「二つ、岩石獣は水耐性がある」



 メルーナは岩石獣に水耐性があるのを知らなかったのだ。そこをアルタイルは敢えてしなかった。


 耐性あるからといって、必ずしも悪い攻撃だとは限らないからだ。水と雷の魔法を使い感電を狙うことだってできるし、氷を使って凍結させることもできるのだ。


 なので、アルタイルは考えがあるのかと思って指摘をしなかったのだが、そうではなかったのだと、水魔法ばかり使い続けるメルーナを見て気づいた。彼女が水の盾を使ったあたりで手を出そうと決めたのだと教えてくれた。



「フランがすぐに動いてくれたのは助かった。あれがあったからこそ、彼女を気にせずに仕留めることができたからな」



 フランは危ないと思って動いたのだが、アルタイルからしたら良かったようだ。そういった考えではなかったにしろ、彼の助けになれていたようでよかったとフランはほっと息を吐く。



「三つ。リーダーだけが悪いわけではない」



 レナードの指示は悪いものではなかった。けれど、連携が取れていたかと問われると、微妙だというのがアルタイルの評価だ。


 ラッシュやメルーナはレナードに頼り過ぎているとアルタイルは指摘する。彼の指示待ちをするのではなく、自分たちで行動しなければ成長はしないと。


 魔物の知識の差もだが、実力の差も大きい。得意な魔法や戦闘スタイルばかりに頼り切っていては、それらが通用しなくなった時に何もできなくなってしまう。



「リーダーだけの問題ではない。この二人にも問題があることだ」



 自分の実力不足云々の前にパーティ全体のレベルが足りていないだけだと、アルタイルははっきりと言い切った。


 ハンターにばっさりと言われたからだろうか、ラッシュとメルーナは顔を見合わせる。二人とも少しばかりへこんでいるようであった。



「反省するのもいいが、まずは知識をつけろ。それからパーティでよく相談し、役割を決めて行動しろ。リーダーばかりに頼るな、お前たちもメンバーだろうが」



 Aランクに上がれたということはそれだけ実力を認められたということだ。「それにお前たちは魔物討伐にあまり向いてはいない」とアルタイルは話す。



「お前たちはどちらかというと、実地調査および護衛を専門にしているだろう」


「あぁ、その通りだ。ただ、魔物討伐もできるようになれば、もっと視野が広がると思ったんだ」



 魔物を倒した経験はある。知識もそれなりにあって、実力は認められている。ならば、魔物討伐もやってみていいのではないか。そんなことを考えている時にハンターがリーダーならばと思ったのとレナードは素直に答えた。


 リーダーとしての不安、新たな事を試したい、そういった考えと感情があったと聞いて、アルタイルは溜息を吐く。



「そんな考えで魔物討伐ができるわけがないだろう。雑念が多くては魔物の予期せぬ動きになど反応ができない。彼らの知識がなくては、どんなに実力があっても何かあった時の対処ができないのだ」



 俺と組みたいのであれば、実力だけでなく、その迷いを捨て、魔物の知識を最低でも身につけなくてはならない。だが、アルタイルは「それでもお前たちのリーダーにはならないがな」と断った。


 何故なのか。それはお前たちの行動が物語っていると、アルタイルに言われて三人は黙った。


 魔物への対応が一切できていない冒険者たちの世話を誰がしたいだろうか。一人ならばまだしも、三人も。それを理解して、レナードは申し訳なかったと謝罪した。



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