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第40話 彼らの動きを見る

 町が背にする山々の一つにフランは登っていた。それは王都に通じる商業道であり、商人や旅人にとって大事な登山道だ。そんなところにフランはアルタイルだけでなく、メルーナたちと一緒にいる。


 事は少し遡り、レナードがアルタイルにパーティに入ってほしいと話した時だ。彼はこう言った。


   *


「オレはハンターにリーダーとなってほしい」



 それにはアルタイルの片眉が上がった。メルーナも驚いたように見つめる中、レナードは「オレでは限界だ」と自身の力がまだ足りていないことを語り出した。


 リーダーとしてパーティを率いて、自分なりに適切だと思う決断をしてきたつもりだった。けれど、中にはそれが仇になることや、悪化させることがあって自分がまだ誰かの上に立つほどの実力はないのだと実感したという。



「ラッシェもメルーナもそんなことはないとオレに言ってくれるけれど、一人でやっていくよりも、パーティを組むというのは遥かに難しいと実感したんだ」



 ラッシュとはメルーナよりも先にレナードとパーティを組んでいる青年だ。同年代で気の合った同性ということもあって組んだのだという。


 二人の時でさえ、判断ミスや、かみ合わないことでの依頼の失敗などもあったのだ。


 それで喧嘩もしたりしたけれど、なんとかやっていけた。メルーナとフランが入った時は全員を纏めるというリーダーの務めの難しさにぶつかり、頭を抱えたのだという。


 フランの扱いが自分の力では無理だったのだと、彼は「申し訳ない」と謝った。



「三人になってもそれは同じだった。自分はリーダーとして向いていないと思ったんだ。そんな時にハンターがフランとパーティを組んだと知った」



 フランとパーティを組んでも問題なく依頼をこなし、彼女のことを悪く言うどころか気に入っているのだという話を聞いた時、思ったのだ。


 あの子と一緒にいても問題なく冷静な判断ができている存在ならば、リーダーとして相応しいのではないかと。



「だから、リーダーになってほしいんだ」


「おい、お前まだそれ言ってたのかよ!」



 振り返れば新緑の短い髪を掻き上げている軽鎧の青年が不機嫌そうに立っていた。話は聞いていたらしく、整った顔を苛立ったように歪めている。


 彼がラッシュだ。レナードと最初にパーティを組んだ青年で、なかなか戻ってこない二人を見かねてやってきたらしい。



「お前は気にしすぎなんだよ」


「いや、オレに実力がないんだ」



 ラッシュにそう返すレナードにアルタイルは深い溜息を吐いた。



「お前はギルド長に失礼なことをしている自覚があるのか?」



 お前をAランクに昇格させた、それだけの実力があると認めた存在に失礼なことをしている自覚があるのか。アルタイルの「お前はあの人のことを信頼していないと言っているのだぞ」と言う。



「お前は実力があるからそのランクに居る。だから、成果を上げているんだ」


「けれど、失敗だって……」


「どんな存在であろうと失敗はする」



 生きている以上は誰にだって失敗はある。完璧な生き物など存在はしないのだからとアルタイルは冷静に言葉を返した。



「俺だって失敗はする。それで死にかけたことだってあった」



 お前はハンターを神だと思っているのか。そんなわけがないだろうとアルタイルが言えば、レナードは「ならば」と口を開いた。



「オレの戦い方を、指示の出し方を見てほしい」


   *


 そうして現在に戻る。レナードに頭を下げられて、ラッシュに「申し訳けれど」と頼まれてしまい、アルタイルは一度は断ったけれど、全く動かない様子に仕方なく、彼らの戦い方を見ることにしたのだ。


 アルタイルはフラン用に用意した討伐依頼の一つを彼らに渡す。登山道を封鎖している岩石獣の討伐をレナードたちにさせてみることにした。


 難しくない魔物の討伐なので動きの観察もしやすいという点があるらしい。フランは邪魔だけはしないようにしよと、アルタイルの後ろを歩く。


 岩石獣を倒した経験はあるようで戦い方は理解しているとレナードは話した。眠りを妨げれば暴れるため、倒すならば素早くしなければならないことを。


 暫く登っていくと道のど真ん中に大きな岩が転がっていた。あれが依頼された岩石獣だろうとフランはアルタイルの背中越しにひょこっと顔を出して確認する。


 大きさはそこそこではないだろうか、大人二人、いや三人分かそれほどに巨体だ。


(この前、追いかけてきた奴よりは少し小さいけど、大きい部類だな)


 フランは岩石獣に追いかけまわされた経験から、あの岩石獣は大きめのサイズだなと認識する。追いかけまわされただけあって、嫌でも記憶に残っていた。


(こういう時ってどうするのだろうか)


 フランはアルタイルから聞いていた戦い方を思い出す。寝ている岩石獣に迂闊に攻撃するべきではないこと。寝ている時は弱点である尻尾の位置に強い一撃を当てることを。


 弱点の尻尾に激痛が走ると顔を出しながら悶えて動かなくなるので、そこで首根を狙って落とせばいいと。


(いや、首根を落とすってアルタイルさんにしかできないのでは)


 これ、普通の冒険者にできるのだろうか。痛みに悶えて動かなくなっている隙に倒すというのはできなくはないのかもしれない。けれど、手際よくできる冒険者は少ないのではないだろうか。


 レナードは岩石獣を見てから視線をアルタイルへ向けた。アルタイルは何も言わず、太刀も抜かない。それは自分は何かない限りは手を出さないと言っているかのようだった。


 その態度はフランだけでなく、レナードも感じたようだ。岩石獣を見つめながら剣を抜き、ラッシュとメルーナに武器を構えるように声をかける。


 ラッシュも剣を抜き、メルーナはロッドを構えた。レナードは二人に「後方で待機、岩石獣が動き出したら支援を」と指示を出す。


 レナードは岩石獣の尻尾の位置を確認しながら慎重に剣を構えた。緊張した様子で、けれど力を籠めて尻尾に一撃を加える。振り上げられた剣は岩石獣の皮膚によって跳ね返された。



「ギュギョギャヤヤッァァアアっ!」



 岩石獣が悲鳴を上げて飛び起きた。ぶんぶんっと尻尾を振って泣き喚いている様子にアルタイルは「外したな」と呟く。


レナードが狙った場所は尻尾の近くだったようだ。上手く尻尾を狙えていなかったせいで、痛みに悶えさせて隙を作れなかった。


 フランがどうしましょうかとアルタイルを見つめるも、彼は何も言わず静観している。こういった時にどう判断するのかも、確認しておきたいようだ。


 レナードを敵と判断した岩石獣が咆哮し、突進してくる。真正面から突っ込んでくる岩石獣を避ける瞬間に首根を狙う。岩石獣の首根の皮膚は薄く、剣で切られた。


 だが、浅かったようで致命傷とまではいかない。薄っすらと血が滲んでいる程度で岩石獣はさらに怒った。


 大きく頭を振りかぶって頭突きをしてくる岩石獣をレナードは剣でいなす。さらに追撃しようとする岩石獣の身体に水球が飛んできた。


 メルーナの援護によって岩石獣は態勢が崩れてよろけてしまう。その隙をラッシュが狙らい、尻尾へ剣を向ける。



「あ」



 アルタイルの零した声にえっとフランが首を傾げた時だった――咆哮が轟く。



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