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第39話 嘘は通用しないし、利用もされない

 少しばかり強い口調だった。ゆっくりと振り返れば眉を寄せたアルタイルがメルーナに鋭い眼を向けている。猛禽類のような眼差しにメルーナはびしっと姿勢を正した。



「こ、この方は私の姉妹弟子のメルーナちゃんです!」



 フランは慌ててアルタイルにメルーナを紹介する。姉妹弟子と聞いて彼の眉間にはますます皺が寄った。不機嫌なのか、警戒心か、フランには読み取れないが、どうやらアルタイルはメルーナをよく思っていないようだ。


 何故いるのだと言いたげな眼をフランに向けてきたので、「えっと、遠征から帰ってきたみたいで」と答えてみる。これは嘘ではないので疑われはしないだろう。アルタイルはほうと小さく呟いてからメルーナへと視線を戻す。



「フランに用事があったわけではないだろう」


「え?」


「お前はフランを利用して切り離したのだから、ただ世間話をしにきたわけではないはずだ」



 はっきりと言われてメルーナは黙った。アルタイルの眼は嘘を許さないといった力が籠められていて、下手な事は言えないと彼女は察したようだ。



「フラン」


「……えっと、その……」


「フラン」


「あーー……ハンターさんをスカウトしたいらしいです」



 そんな猛禽類の眼でじっと見つめられながら名前を呼ばれたら、黙っていられるわけがないじゃないかとフランは心中で叫ぶ。


 フランの返答にメルーナがぎろりと睨んだけれど、アルタイルの「なるほど」という低い声音を聞いてか俯いた。



「俺は入るつもりはない」


「ど、どうしてですの? Aランクパーティですのよ!」


「お前は知らないのか?」


「え?」



 きょとんとするメルーナの表情にアルタイルは溜息を零した。それでもAランクの冒険者なのかと言いたげに。


「俺はSランクだ」


「は……」



 アルタイルの発言にフランはそういえばと、ハムレットと出会った当初のことを思い出した。確か、アルタイルは「どうせ、Sランクのハンターの知り合いがいると言ったのだろう」と、突っ込んでいた。



「一つ勘違いしているのかもしれないが、ハンターの称号はSランクにしか与えられない」



 ハンターの称号というのはそれだけ与えるに相応しい冒険者でなければならない。ランクが高く、魔物の知識が深く、戦闘能力があり、常に適切な判断ができなければならない。それ以外にも条件はいくつもあるが、それらを満たすのはSランクでも少ないとされている。


 アルタイルはハンターという称号だけで通じるだろうと思っていたが、知らない冒険者もいるのかと呆れた様子だ。



「Sランク冒険者がAランク冒険者パーティと言われても惹かれるわけがないだろう。同じランクならば考えるかもしれないがな」



 Sランクの冒険者は少ない。多くは自分がリーダーとなってパーティを率いている。あるいは同じランクの冒険者と共に行動を共にしているのだが、Aランク以下の冒険者がリーダーなパーティに入ることは少ない。


 理由としては能力値の違いや、戦闘スタイルの差だ。それらがリーダーと合わなければ、パーティとしてのチームワークの乱れになってしまう。



「別にランクが下だからパーティを組まないわけではない。自分の能力値の違いや、戦闘スタイルの差、それらが合わないからだ」



 自分がリーダーとして立ち、それらとの相性が良ければランクが下であろうと同等であろうとパーティは組むとアルタイルは話した。



「フランがそれに当てはまる。彼女の戦闘スタイルは俺を邪魔することがなく、サポートすることができる。彼女が引き起こす不幸も不運も、こちらとしては利用して役立てることができるからな」



 だから、Bランクでもパーティを組んだのだとアルタイルが説明すれば、この子がと言いたげな目をメルーナはフランに向けてきた。


余程、信頼がないのだろうなとフランは苦く笑う。自分の不幸体質を利用して役立てるなどと考えたのは、ハンターであるアルタイルだけだったのだから、理解できないのもしかたないことだ。



「そもそも、他人を利用しようとする存在の元に行きたいとは俺は思わない」



 お前は散々、フランを利用したのだろう。冷たくけれど威嚇を含んだ声音にメルーナは目を逸らして、どう返答すればいいのか考えているようだ。


 俯きながらも、何か返答しようとするも、「また利用するつもりだったのだろう」と追い打ちされてしまう。


 がくりと肩を落としたメルーナを見て、負けたのだなとフランは察した。嘘も通じそうにない、自分の無知さを晒してしまった落ち度、それらを考慮したのだ、彼女は。



「おい、メルーナ。何をやっているんだ」


「あ、レナードさん」



 騎士のような鎧に身を包む青年が駆け寄ってきた。少し長めの白金を一つに結った切れ長の目元が特徴的な青年こそが、メルーナのパーティのリーダーであるレナードだ。


 水色の眼をメルーナに向けてから、隣に立つフランへ、それからアルタイルへと移していく。彼女が何かしたのかを察したようでレナードは「申し訳ないことをした」と謝罪した。



「彼女がハンターに何か言ってしまったのだろう? 例えば、スカウトしたいとか」


「そうだな」


「それはオレが考えていたことで、彼女は自分が役に立てるかもしれないから行動しただけなんだ」



 フランとパーティ組んだと知って、同じ姉妹弟子ならばと考えてしまったのだろうと弁明するレナードに、アルタイルは「利用できると考えることが仕方ないことだと?」と、顔を顰めた。



「お前は誰かを利用するという考えを肯定するのだろうか?」


「いや、そういうわけではない。メルーナが実際にフランを利用しようとしたのならば、それは褒められたことではないとオレは思う」


「ならば、よく言い聞かせておくといい。お前はパーティのリーダーであるのならば、メンバーの教育はしっかりしておくべきだ」



 どんな理由があれ、誰かを利用していいわけではない。そんな自分勝手な行動を許してはいずれ、取り返しのつかないことになるのは目に見えている。アルタイルは冷静にけれど厳しく指摘した。


 そう言われてレナードは反論ができなかった。自分勝手な行動がどれだけ危険な行為であるのか、Aランクの冒険者が知らないはずがない。レナードは「申し訳ない」と素直に頭を下げた。


 リーダーの姿にメルーナも「申し訳ございませんでした」と謝罪した。アルタイルはまだ何か言いたげではあったけれど、謝罪を一先ず受け入れる。なんとか場が治まったことにフランはほっと息を吐いた。



「けれど、オレはハンターにパーティに入ってほしいと思っている」



 アルタイルの眼が鋭くなる。場が治まったと思ったらとフランは内心、焦った。アルタイルは腕を組んでレナードを見つめているのだが、それは出方を窺っているように見える。


 警戒心は見せていない、感じさせていない。アルタイルは話は聞くという姿勢だった。それは相手に〝余計な事はさせない〟という圧をも感じるものだ。


 フランは口は出さないようにしようと黙って事の成り行きを見届けることにした。




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