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第36話 ハンターさんは面倒くさいタイプらしい

「フランちゃんはほんっと、こいつの扱いが上手い」



 ギルドに戻って報告をした後、フランたちは遅めの昼食を取っていた。今は定番となっているフルーツをフランは堪能している。アルタイルはその様子を眺めているのだが、これがすごく機嫌が良さげだ。


 ハムレットの事を眼中に入れていない。それを気にするでもなく、ハムレットは相席して、注文した肉料理を食べながら話をした。



「扱いとは?」


「フランちゃんに弱いからな、ハンター」



 気に入っている存在にあんなふうに言われたら何もできないぜ。ハムレットは肉を頬張りながらそう返す。


 フランは意識してやったわけではない。ただ、思ったことを言っただけなのだが、それがまだ良いらしい。狙ってやっていないから心に響くのだという。



「そこもフランちゃんの良さだよなぁ。そりゃあ、好感度が上がるわけだわ」



 好感度と言われてフランが首を傾げれば、「普段からそうやっているなら、誰だって好感は持つぜ」とハムレットが答える。


 そうだろうかとフランは自分の行動を思い出してみた。とはいえ、不幸体質が発動してへこんで愚痴を言ったりだとか、アルタイルに餌付けされるのに暫く付き合ってみたりだとかぐらいしか思い浮かばない。


 ただ、アルタイルだからと特別、変わった態度はしていなかった。ハンターなのだから強いし、考えが違うのは理解しているのでそこは気にするけれど、他はそうではない。少し変わった人だなと感じるだけだ。


 なので、何が良いのだろうかとフランは不思議に思っている。けれど、ハムレットは別に気にすることはないと言った。そこもまた、〝フランの良さ〟なのだからと。



「まぁ、ハンターはそれでちょっと困るかもしれねぇけど、それはフランちゃんには関係ないことだから気にしなくていいぜ」


「そうなんです?」


「そうそう」



 こればかりは本人が解決しなきゃならないからなとハムレットはアルタイルを見遣る。彼はその視線に気づいてか何とも言えないといったふうな眼を向けた。



「五月蠅いぞ、ハムレット」


「はいはい、この話は終わりにしますよー。っつか、フランちゃんの体質は相変わらずだな」



 この前はハンター目当ての女子冒険者に振り回されたというのにさ。ハムレットは「今度は初心者に捕まるんだもんなぁ」としみじみとしたふうに言う。


 最近は魔物討伐で起こっていたが、対人でも発動してきたようだとフランも思った。それはそうだよな、だって前もそうだったもんと。


 パーティを組むと対人関係が生まれるのだから、そこで体質が引き寄せてしまうこともあるのだ。こればかりは仕方ないかとフランは気をつけなければと引き締める。



「パーティを組むと毎回、仲間にいろいろ言われたり、されたりしていたんですよねぇ。でも、アルタイルさんにはそんなことされてないので、ちょっと不思議なんです」



 この不幸体質というのは厄介なもので、魔物との戦闘中だけでなく対人でも発揮する。パーティを組めば仲間との関係で起こったりするのだが、アルタイルとはそれが一切ないのだ。


 ちょっと変なところがあるなぐらいで嫌な思いはしていない。だから不思議だなと口にすれば、ハムレットは「フランちゃん」と真顔を向けた。



「ハンターと出逢った時点で体質が発動してるぞ」


「え?」


「こいつ、変わったところどころか、面倒くさい人種だからな」



 狙った獲物は絶対に逃さない。それはハンターの称号を持っている冒険者ならば当然な思考だ。アルタイルはそれを人間相手でも容赦なくやってのける。


 何事にも動じず、状況を利用し、戦闘をこなす。それはハンターとして上手くやっている。ただ、アルタイルは内面部分が面倒くさいのだとハムレットは言った。



「確かに、こいつは悪い奴じゃないぜ。おれやカルロの面倒も見てくれるしな。良い奴ではあるけど、すっげぇ面倒くさい」


「例えば?」


「フランちゃんさ。ハンターの変わった部分を思い浮かべてみ?」



 変わった部分とフランはいくつか挙げてみる。不幸体質を面白いと難の躊躇いもなく受け入れていること、小動物みたいだからと餌付けするみたいにフルーツを食べさせようとすること。ほかにも返り血を拭ってあげようとすると固まったりだとか。


 思い浮かべるといくつもあるなとフランは気づく。食事をしている様子を機嫌良さげに眺められているのも変わっているなと感じるしと呟けば、ハムレットは「普通はそれ面倒くさい」と指摘されてしまった。



「異性だろうと同性だろうと、それ常にやられたらうざいってなるもんだよ、フランちゃん」


「な、なるほど……」



 全く、感じなかったとフランは驚いた。何か文句を言われることにばかり慣れてしまっていたせいか、気づかなかったのかもしれない。でも、嫌ではないしなぁとフランが答えれば、ハムレットは「まぁ、害はないもんな」と頷く。



「だから、フランちゃんの体質はハンターと出逢っている時点で発動してたんだよ。ただ、それをハンターとフランちゃん自身が乗り越えただけだと思うぜ」



 そういうこともあるのかとフランがハムレットの話を聞いていると、強い視線を感じて思わず見遣る。アルタイルが頬杖をつきながら不貞腐れていた。


 なんともその子供っぽい態度にフランは目を瞬かせる。どうしたのだろうかと考えていれば、ハムレットに「構ってもらえてないからって拗ねんなよ」と笑われていた。どうやら、アルタイルは構ってもらえていなかったことが不満らしい。


 意外だなとフランがアルタイルを見つめれば、彼は無言でフォークを手に取るとフルーツの盛られた皿から林檎を選んで刺した。そのままフランの口元まで運ばれて、察する。これ、食べないと機嫌が直らないのではと。


 人前なので恥ずかしさがあるのだがアルタイルは引く様子をみせない。彼を放置していたという自覚はあったので、フランはしぶしぶと林檎を齧った。林檎は瑞々しくていつもと変わらず美味しい。


 もぐもぐとフォークに刺さった林檎を食べ終えると、アルタイルはそれはもう機嫌よさげに目元を緩めていた。満足したのかなとフランが小さく息を吐くも、今度は桃が刺さったフォークを差し出されてしまう。


 自分で食べられると言おうにもまた拗ねられてもなと考えてフランは口に含んだ。甘い桃は口の中で良い香りが弾けて、美味しい。美味しいけれどゆっくり味わえない。


 今度はオレンジを刺したのを見てフランがハムレットを無言で見遣れば、彼は静かに胸元でバツ印を作っていた。おれでは何もできないというように。


 そんな二人の様子にアルタイルは「別に悪意があるわけではない」と言った。これは俺にとって得なことなのだと言う。



「この行為は小動物に餌付けしている気分を味わえるんだ」


「あぁ、癒されるっていう意味ね」


「よく、わかりますね」


「付き合いは長いからな」



 付き合いが長くなればだいたいのことは分かるとハムレットは言う。そういうものだろうかとフランは思いつつ、差し出されたオレンジを口に入れた。今度は酸味があってさっぱりしている。


 フルーツは美味しいけれど人目が気になる。フランはそう思うのだか、アルタイルは全く気にしている素振りも見せない。ここも変なところだなと感じてしまうのは自分だけだろうかとフランはアルタイルの行動を眺める。


 まだ食べさせ足りないようにフルーツをフォークで刺すので、またハムレットに目を向けると察したように頷かれた。



「暫く、付き合ってやってくれ、フランちゃん」


「なんだ、その言い方は。俺が悪いことをしているみたいではないか」


「お前、ほんっと面倒くさいなぁ」



 ハムレットの突っ込みにアルタイルは動じない。これの何処が悪いといったふうだったのでやめるつもりはないようだ。フランもこれはどうしようもないかと諦めるしかなかった。


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