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第33話 ワイバーンとの戦い方を知らない冒険者たち

 町から東に行き、見える山は連なる中では険しいことで有名だ。旅人も商人もその山だけは通ろうとしないほどには。


 そんな険しい山だからこそ、薬草などの資源が豊富なようだ。人の手があまり入っていないというのもあるのだろう。一応はある登山道は少しばかり荒れていた。


 そんな登山道に最近、人が入っただろう痕跡が残っているのを確認する。草が折られて踏みしめられ、いくつかの足跡が地面に残されていた。



「こりゃぁ、最近どころじゃないな。ついさっきって感じだ」



 踏みしめられた草や足跡の残り方を見てハムレットが言う。おそらく、ワイバーンを追っていた冒険者パーティのものではないかと。


 痕跡だけで分かるものなのだなとフランが問えば、「これぐらい朝飯前よ!」とハムレットは胸を張った。残された情報で何がいつ通ったのか、潜んでいるのか等を把握する力がないとダンジョン探索はできないのだという。



「ハムレットのその能力は信用していい」


「おい、それ以外は駄目みたいな言い方をするなよ」



 ハムレットが言い返せば、「女にだらしないとこは信用ならない」とアルタイルにばっさり切り捨てられてしまった。自覚はあったようで、ハムレットはむぅっと口を尖らせる。


 二人とも仲がいいなとフランは思った。こういった掛け合いができるぐらいには信用しているということなので、そう感じたのだが口に出すとアルタイルの顔が渋くなる。ハムレットは「そうだぜ!」と笑顔で返事をしているが。



「一緒にされるのは不服だ」


「お前、ほんっと失礼だな」


「えっと……。あっ! なんかあっち荒れてません?」



 これは話を変えたほうがいいかもとフランが周囲を見渡してみれば、道の先のほうが酷く荒れていることに気づいた。


 その荒れ具合は人があまり立ち入っていないからといったものではない。枝葉が散らばっており、足の踏み場が見えない。道ではないが傍の細い木がへし折れていて、人工的に荒れたのは間違いなかった。


 木の幹には爪痕が残されていて、アルタイルは「ワイバーンのものだな」と断言する。この場にいないということはさらに山奥へと移動したのだろうということだった。


 地面に散らばる枝葉で怪我をしないように慎重に歩くフランたちに、アルタイルが「いつでも戦えるようにしておいたほうがいい」と指示を出して太刀を抜く。それはワイバーンが油断できない相手であることを知らせていた。


 ハムレットも弓を手にし、いつでも射ることができるように構えている。二人の様子に経験の差が見えて、自分も気をつけねばとフランは紫水晶のロッドを握り締めた。



「ギャアァォワアァン」



 周囲を警戒しながら進んでいくと鳴き声と人の声が耳を掠める。何処からだろうと耳を澄ましてみれば、それは登山道を外れた奥のほうからだった。


 鬱蒼と生い茂る木々しか見えないこの先にワイバーンと冒険者パーティたちがいるのか。フランがアルタイルへ目を向ければ、彼は太刀を振るって邪魔な枝葉を切り落としながら足を踏み入れていた。


 前に出ないようにアルタイルの後ろを歩く。道なき道を進むほどに鳴き声を人の声が大きく聞こえてくる。そろそろだろうかとフランが思ったのと同じく、アルタイルが立ち止まった。


 茂みから顔を覗かせれば、三人の冒険者の背とワイバーンだろう魔物の翼が見えた。前肢と翼が一体化しているワイバーンは大きく、鋭い眼光で冒険者たちを睨んでいる。


 コウモリのような皮膜の翼をこれでもかと開き、鏃のように尖った尻尾をぶんっと振り回す。攻撃を仕掛けようとした軽鎧の少年が尻尾に当たり、吹き飛ばされてしまった。そこを狙ったかのようにワイバーンが突撃してくるも、盾を持った剣士の青年が守って阻止する。


 後方では魔導士の少女が援護をしているが全く攻撃は当たっていない。三人の冒険者はワイバーンにまともな攻撃を与えられていなかった。そんな様子にハムレットが「ありゃぁ、駄目だ」と息を吐く。



「戦い方が成ってない新人ちゃんじゃねぇかよ」


「ワイバーンに突っ込んでいく時点で、戦ったことがないのは分かることだな」


「そうなんですか?」


「ワイバーン相手に突っ込んでいってはいけない」



 ワイバーンは鋭い牙と鏃のように尖った尻尾、その図体が武器だ。まっすぐに突っ込んではリーチの長い尻尾で吹き飛ばされてしまう。身体は大きくとも素早いので吹き飛ばし後に突進するという行動も隙なくできる。


 なので、正面から突っ込んでいくのは危険な行為だ。それを知らないということは戦ったことがないか、新人で何も知らないかのどちらかということだった。



「あれでは勝てないどころか怪我をする」


「怪我で済めばいいけどな。さっさと加勢したほうがいいぜ、ハンター」



 あれは危なっかしくていつ大技を叩き込まれて死ぬか分からないとハムレットが弓を構える。アルタイル彼の意見には同意のようで太刀を手に茂みから出た。フランはその少し後ろを着いていく。



「お前たち、邪魔だ」



 アルタイルの声に三人の冒険者が反応した瞬間だ。突風のような一閃が駆け抜けてワイバーンは木々に叩きつけられた。


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