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第24話 不幸も不運もハンターにとっては好機になる

「うおぉっっとぉ!」



 ボアーの突撃にフランは飛び避けた。カルロが相手していたボアーの群れから一匹が外れてきたようで、フランがカプロスに何か仕掛けようとしているのに勘付いたようだ。ふごふごと鼻を鳴らしながら地面を蹴っている。


 あ、これはまずい。フランの経験が警告を出す、危険だと。距離を取ろうと下がるフランだったが、それがボアーを刺激したようだ。ふごーっと大きく鳴いて突撃してくる。


(当たったら、駄目だ!)


 怪我だけではすまないとフランは駆けだした。距離を取らねば魔法を使うことができないフランは突撃してくるボアーから逃げる。


 左右に避けてみたりしてみるも、ボアーは止まらない。それどころか距離を詰めて頭突きをしてきた。すると、また一匹とボアーがフランに気付いて走ってくるではないか。


 増えるボアーにフランは追い掛け回される形となってしまった。どうしてこうなったとフランは叫びそうになるも、逃げてばかりでは解決しない。フランは二匹のボアーが方向転換するタイミングで振り返った。


 素早くロッドを振って突風を起こす。ぶおんと吹き抜けていく風に一匹のボアーが吹き飛ばされて宙を舞う。飛んでいったボアーがカルロが相手していたボアーたちの上に落ちた。


 巻き込まれたボアーが下敷きになって気絶し、突然のことに驚いた残りが混乱したように走り回る。一匹が別の仲間にぶつかって統率が取れなくなっていた。


そんな状況にカプロスは気づかない。アルタイルの太刀を折らんとするように牙で押し返すのに夢中になっている。


 突風に煽られたボアーはそれでもフランを狙った。勢いよく走って突撃してくるボアーの勢いにフランは避けられないと悟って咄嗟にしゃがみこんだ。


 目の前まできていたというのに一瞬、視界からフランが消えたことでボアーは反応ができなくなったのか、止まることもできずにジャンプした。


 フランを飛び越えていったボアーは綺麗な弧を描いてカプロスの頭に激突した。


 それはもう見事に当たってカプロスが大きく身体をよろけさせる。牙で押さえつけられていた太刀が引っ張られ、アルタイルが転げそうになるのが見えた。


 やってしまった。フランがそう思う間もなく、アルタイルは動いた。カプロスの牙を利用するように地面を蹴って宙を舞い、背中に着地して太刀を突き立てた。


 ふっと魔力が籠められてカプロスの全身に電流が走る。声も出せないように口を大きく開けながら痺れた身体をぴんと伸ばして震えながら倒れた。


 それはもう綺麗に流れを変えていくものだからフランは声も出ない。カプロスが倒れたのと同じく、場が乱れてしまったというのにボアーの群れはカロルが狩り切っていた。



「わたし、またやっちゃったと思ったんですけど……」


「フランちゃんのその体質、ハンター《あいつら》には通用しないぜ」


 ぼんやりと座り込んで眺めていたフランにハムレットは駆け寄って話す。どんなこともあいつらはチャンスに変えてしまうと。



「おれとかほとんど何もしてないからな」



 ボアーをカルロの元に追い込んだくらいだぜとハムレットは「おれ、要らなかっただろ」とぼやいている。それを聞いてフランは自分も特に何もできていなかったなとへこんだ。


 そんな二人の様子など全く知らないといったふうに、カルロがボアーの頭を掴んで笑顔で走ってくる。血塗れの頭部を持っている姿というのは、ちょっとした狂気を感じた。



「見てみてー、すぱっと吹き飛んだ頭~」


「もってくんな、アホ!」


「えー、綺麗にもげたのにぃ」



 あほかとハムレットに突っ込まれてカルロは仕方ないなぁと、ボアーの頭部を捨てた。それから背伸びをして、「楽しかった!」と笑む。


 何処がと言いたげにハムレットが顔を歪めるのだけれど、カルロは「慌てふためくボアーの姿は面白かったね」と楽しげだ。



「あぁ、すみません……」


「え? なんで謝るの?」


「いや、だって場を乱したのは私のせいですし……」



 ボアーを吹き飛ばしたのは自分でとフランが説明するも、カルロは全く気にした様子をみせない。むしろ、あれがあったから狩りやすくなったと言った。


 統率が取れず、混乱しているボアーには隙が多い。一匹ずつ狙うのが楽になったとカルロは「フーちゃんは何も悪いことしてないよ」と答えた。



「フーちゃんは気にしすぎなんだよぉ」



 いや、気にしすぎではないと思う。フランはそう言い返したかったのだが、カルロの首根が思いっきり引っ張られたことで遮られてしまった。



「いったい!」


「フランと距離が近い」



 不機嫌そうにしながらアルタイルはそう言って、フランのほうを見た。あのとフランが言葉を発するよりも先に「大丈夫か?」と、声をかけられる。


 怪我はないかと心配されて大丈夫だとフランが頷けば、アルタイルはそうかと一つ息をついた。



「フランが無事ならそれでいい。カプロスの死亡も確認した、ギルドに戻るぞ」


「え、あの……」


「問題はない」



 フランが何を言いたいのか察したようにアルタイルは返す。まだ何も言っていないけどなぁという顔をフランがしていれば、「大体、想像ができる」と言われてしまった。


 そんなに分かりやすいだろうかとフランが頬を押さえていると、ハムレットが「こいつが我儘言う前に戻るぞ」と、カルロの腕を掴んで捕まえていた。どうやら、カルロはまだ狩り足りないようだ。


 むぅとしているカルロが駄々をこねる前にと言いたいようだったので、フランは彼を引っ張っていくハムレットの後に続いた。


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