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第23話 カプロスの雄叫び

 長閑に見える山の麓にある村は大丈夫なのかという不安な声で溢れていた。カプロスの姿を見た村人がいたようで戻ってきた冒険者たちに詰め寄っている。


 対応をしている魔導士の若い女性が「大丈夫ですから」と返答しているが、村人たちの声に疲弊しているようだ。


 フランたちをこの村まで案内していた軽鎧の青年が声をかければ、やっと戻ってきてくれたと安堵した表情をした。


 他にも冒険者がやってきたのに気が付いた村人たちはなんだなんだと見つめてくる。その視線が少し怖くてフランは目を逸らしてしまった。



「やっときてくれた。カプロスはあっちの山のほうにいるわ。他のメンバーが見張ってくれているから早く行って!」



 あっちよと山側の村の出入り口を指さした。軽鎧の青年は一緒に居た魔導士の少女に「こいつと一緒に対応をしてくれ」と、女性の応援を頼み、フランたちを連れて行く。


 通り抜けていく際に村人たちから「これだから若い冒険者は当てにならん」と呆れた眼差しを向けられた。


 期待外れといったふうな態度にフランは思わず俯いてしまう。こういった視線というのがフランは苦手だった、少し前の自分を思い出して。何をやっても上手くいかず、パーティメンバーには冷たい目を向けられていたあの頃を。



「すぐに片付く」



 ふっと声がして顔を上げればアルタイルと目が合った。彼は何でもないように「問題はない」と言う。


 それは気持ちを察しているような感じで、フランは目を瞬かせる。まだ何も言っていないのだけれどと。


 フランが問いかけようとするも、軽鎧の青年の「あっちにいるようです」という言葉にかき消されてしまった。


 軽鎧の青年は見張っていた仲間と合流して状況を聞いたようだ。外にある畑にいると村から少し出てほらと声を潜める。


 畑用の小屋を遮蔽物しながら様子を窺えば、ボアーの群れが畑の中心に集まっていた。


 ボアーたちに囲まれるようにカプロスはいた。大人二人分はあろう高さにふとましい巨体は遠目からでも視認ができる。


 焦げ茶色のゴワゴワしていそうな毛が逆立ち、二本の大きな牙がぎらりと輝いて見えた。



「オレたちも手伝えますが、ハンター……」


「その必要はない。こちらに任せてもらおうか」



 アルタイルは軽鎧の青年たちの手伝いを断った。人手が多いほうがいいのではという疑問が出るも、カルロの「邪魔になるからいらない」という返事にばっさり切られてしまう。



「ぼくちんたちの狩りたいようにやるから、君らはここで待っててよ」


「えっと……わかった」



 何か言いたげにしていた軽鎧の青年だが、にこりとカルロに微笑まれて黙った。圧を感じたようでどうぞと彼に道を譲る。


 カルロはと言えば、わくわくした様子でナイフを手に歩いていく。こういう時は作戦などを立てるのではと思っていたフランは、一人で出ていくカルロに驚いてアルタイルに「大丈夫なんですか!」と声をかけた。


 けれど、アルタイルは特に心配している様子もない。いつもの事といったふうに「あれは気にしなくていい」と返された。



「あれはあれのやりたいようにやられていればいい。フランは後方で支援していてくれ、ハムレットも」


「りょうかーい」


「ふ、二人とも軽い……」


「カルロは大丈夫だぜ、フランちゃん」



 おれらは二人を後方で支援してればいいさとハムレットは弓を構えた。それで大丈夫なのだろうかとフランは心配になったのだが、アルタイルも太刀を構えてさっさと行ってしまったものだから、二人を信じるしかない。


 小屋を遮蔽物にしながらボアーたちの動きを観察する。先に気づいたのはカプロスだった。野太い雄たけびを上げて地面を蹴れば、ボアーたちが一斉に走ってくる。


 一匹、また一匹と向かってくるボアーたちアルタイルは太刀でいなし、カルロはひょいひょいと避けながら一撃を加えていく。二人の攻撃はボアーたちに当たり、群れの動きを掻き乱した。


 受けた刃の痛みに鳴き、避けられてしまう攻撃にボアーたちはだんだんと動きがおかしくなっていった。統率が取れなくなっていることをカプロスは感じ取ったようで、野太い声で威嚇する。


 すると、ボアーが落ち着きを取り戻したように動きが俊敏になった。それはフランの目から見ても分かるほどで、ハムレットも「ありゃあ、カプロスが先だな」と呟いている。


 カプロスがリーダーとなっているため、これをどうにかしなければ、何をやってもボアーの群れはすぐに落ち着きを取り戻すだろう。それはアルタイルたちも理解しているようだ。


 アルタイルが前に出てカプロスと対峙する。カプロスは呻りながら牙を振りまわすが、太刀で受け切ったアルタイルが頭を捕らえる。


 頭部に深く切り込んだ太刀を引く。ぴしゃりと血を飛ばしながらカプロスは悲鳴を上げて後ろへと下がった。鳴き声を聞いてか、ボアーたちがアルタイルに向かっていくも、カルロがそれを食い止める。



「君たちはこっちで遊ぼうねぇ」



 なんとも楽しげにナイフで捌き、ボアーたちを地面にねじ伏せる。アルタイルはボアーを気にしている様子はなかった。


(カルロさんに任せている?)


 何も言わず、彼らの行動を理解しているかのような動きにフランはそう感じた。


 カプロスが姿勢を低くして突進してくるのをアルタイルは避けるも、相手は止まらない。ぐるんと瞬時に方向転換して狙ってくるが、矢がカプロスの顔を射抜く。


 じろりとカプロスが目を向けた。小屋を遮蔽物にしながら矢を射ったハムレットだが、相手に位置が知られたのに気が付いて、「フランちゃん逃げるぞ」と指示を出す。


 ハムレットの指示が飛んだのと同じく、カプロスが小屋に向かって突進してきた。フランは慌てて右に飛んで避けるとロッドを振る。


 紫水晶が輝いて氷の刃がカプロスを襲った。突き刺さる刃にカプロスは動きを止めて身体を振り回す。いくつもの氷の刃が皮膚を貫くも、弱る様子も見せずに怒りの声を上げている。


 アルタイルが隙を狙ったかのようにカプロスへと距離を詰めて太刀を振るうも、牙で受け止められてしまう。ぐっと力を籠めて押し返そうしているカプロスにアルタイルは引かない。


 これはアシストしなければとフランが魔法を使おうとロッド構えて――飛び上がった。



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