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第20話 この体質の何処が面白いのか!

「ひぇえっ!」


 複数の光の玉が暴走したかのように地面や墓石を跳ね、宙を飛び交う。その暴れっぷりは目で追えないほどだ。びゅんびゅんと周囲の状況など知ったことではないといったふうに飛び回っている。


 魔法を練っている途中で邪魔をされてしまったことで、本来のものとは別のものが発動してしまったようだ。


 突然のことにフランですら制御ができていない。当たらないように向かってくる光の玉たちを避けるために走り回るので精一杯だ。


 光の玉が襲うのはフランだけではない。アルタイルもカルロも向かってくる玉を弾き、避けている。デュラハンは馬に乗っているので全てを避けることができず、鎧に傷をつけながら剣で光の玉を切り裂いていた。


 切り裂かれようとも光の玉の暴走は止まらない。跳ねて飛ぶ勢いは激しくなっていくばかりだ。どうにかしなければと思うけれど、打開策を考えられるほどの余裕がフランになかった。



「ひげぇぇぇぇえっ、ぶへっ」



 目の前に迫ってきた光の玉を身体を大きく逸らすことで避けるも、別の玉が足元を掠めてフランは盛大に転んだ。べちんと地面に顔面をぶつけ、手に持っていたロッドが転がって、それは起こった。


 ころころと転がったロッドを黒馬が踏んでバランスを崩したように転倒した。がしゃんと鎧が地面に叩きつけられて、デュラハンの手から剣が落ちる。足を挫いたのか起き上がらない黒馬をデュラハンが立たせようとして――一閃が襲う。


 アルタイルはその隙を見逃さなかった。暴れる光の玉を掻い潜り、一気に距離を詰めて鎧を切り裂く。ぶわりと黒い霧が穴の開いた鎧から溢れ出し、デュラハンが苦しみ出した。


 声など聞こえないというのに呻いているようにもがき、地面を這うも、逃れることはできない。


 光の一閃がデュラハンを貫いた。伸ばされた手が空を切り、身体が霧散していく。空気に溶けるようにデュラハンは消え、続くように黒馬も散っていく。


 フランは強く打った鼻を押さえながらその光景を眺めていた、反省しながら。またやってしまったと。



「フラン、大丈夫か」


「すみませぇぇん……」



 自分のやらかしたことにフランはへこむ。魔法が別のものに変わってしまう可能性があることを知ってはいたが、制御できないとは思っていなかったのだ。


 自分の実力不足で迷惑をかけてしまったことへの申し訳なさで泣けてくる。涙目で俯きながら座り込むフランにアルタイルは近寄ると優しく背を擦った。



「むしろよくやった。デュラハンを馬から落としたのはよかったぞ、フラン」


「それ、私がやったことですけど、ちがくてぇ」



 あれはたまたまでとフランが言うも、アルタイルはそれでもよくできたと返してくる。どうして責めないのだろうかとフランが顔を上げれば、「あのさぁ」と声がした。



「イチャイチャしてないで、これどうにかしようよ~」



 そう言ってカルロはびゅんびゅんと飛ぶ光の玉を弾く。そういえば、デュラハンは討伐できたがまだこれが残っていた。


 フランは慌てて立ち上がってロッドを拾うと魔法を練って振るう。ふわりと涼しげな風が吹き抜けて光の玉に触れるとぱっと弾けた。


 あれだけ暴れ回っていた光の玉が散って静かになる。ほっと息をついてからフランはカルロに向かって頭を下げた。



「す、すみませんでした!」


「え? 気にしてないよ、ぼくちん。なんか面白いぐらいにとんとんと進んだよね」



 一つ何かが起こればそれに続くように連鎖していく流れというのが面白かったとカルロは笑った。「アルアルが言っていたことってこれかぁ」と、アルタイルの「デュラハンと戦う時になったらわかる」という言葉に納得した様子だ。


「面白いだろう?」


「うん、面白い」


「何処が!」



 これの何処が面白いのだとフランが突っ込めば、「流れ?」とカルロが小首を傾げながら答えた。



「連鎖が凄いよねぇ。魔法暴発から光の玉に追い掛け回されて、盛大に転んで、転がったロッドに黒馬が躓いて転倒。いや、こんな綺麗にはいかないもんだよぉ、普通」



 普通ならば怪我をしていてもおかしくはない。パーティを組んでいるのであれば、周囲を巻き込んで被害が出る可能性だってあった。


 けれど、そうなるのではなく、むしろ良い方向に展開していっている。これがとんとんと進んでいくのだから綺麗だと言わざるおえない。


 カルロは「あんなにきれいに転ぶとか見ないよ」と笑う。それは私の事なのか、デュラハンの事なのかとフランが返答に困っていれば、察したように「両方」とカロルに言われてしまった。



「これ何度も起こる感じ?」


「一討伐につき一回は起こる」


「何それ、飽きなさそう」



 退屈しないとか羨ましいとカルロはアルタイルの肩を掴んで揺さぶった。


 いや、これのどこが良いのだろかというフランの疑問に二人は答えてはくれない。「いいなー、いいなー」と羨ましがるカルロにアルタイルは「五月蠅い」と眉を寄せていた。



「えーん! ぼくちんも楽しく狩りたいぃぃ!」


「駄々をこねるな」


「フーちゃん、可愛くて面白いとか最強じゃん!」


「こうなるからフランを会わせたくなかったんだ」



 絶対に気に入るだろうと思ったとアルタイルが嫌そうにしている。


 フランからしてみれば、どうしてそうなるといった疑問しか出ないのだが、二人はそうではないらしい。こんな体質は無くていいとしか思えないというのに。


 フランは理解できずにうーんと唸ってしまった。そんな彼女を他所にカルロは「ぼくちんも楽しみたいぃ」と駄々をこね始める。けれど、アルタイルは動じずに彼の首根を掴んで引きずりながら歩き出す。



「うわーん!」


「さっさと戻るぞ」


「え、あっはい……」



 こいつの話は無視していいと言うアルタイルは慣れているようで、まだ何か騒いでいるカルロを無視していた。


 それは付き合うだけ無駄だと言っているかのように見えて、フランも構わないように二人の後を追った。カルロが「二人とも酷い!」と不満げな声を上げていたが、聞かなかったことにして。



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