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第14話 ハンターさんのことはよく分からない!

「すみませんんん……」



 うぅと鼻を鳴らすフランにハムレットが「気にしてないから」と励ましている。ゴブリンの巣の調査を終えて、ギルドに戻ってきていたフランは半泣きだった。


 あの後、フランは注意されたというのに罠をものの見事に踏み抜いた。地面から生えた蔦に足を掴まれて転びそうになって壁に手をついて、発動した罠によって矢が飛んでくる。


 それに当たりそうになったハムレットが避けて、向かってきた矢をアルタイルが切り伏せた。それはもう綺麗な流れを生み出してフランは申し訳さでへこんだ。


 アルタイルは「あれはあれで芸術点は高かった」とフォローになってない言葉をかけてくる。フランは「嬉しくないぃ」と嘆きながらテーブルをべしべしと叩いた。



「ほら、そういう時もあるって!」


「そういう時が殆どなんですよぉぉ」



 自分の不幸体質が嫌になるとフランはがっくりと肩を落とす。二人は気にしていないと言うが、自分は気にするものだ。あまりの落ち込みようにハムレットが「気にしてないからな」と励ましていた。


 それでもフランがへこんでしまった。「おれもミスはするからな」と、ハムレットによしよしと頭を撫でられていれば、がんっと思いっきり椅子を引かれる。


 突然のことにフランの身体が傾くがアルタイルの胸にぽんっと収まった。はてっとフランが困惑しながら顔を上げれば、それはもう不機嫌そうな彼がそこにいて目を瞬かせる。



「アルタイルさん?」


「馴れ馴れしい」


「え?」


「ハンター……。その……おれが悪かったから睨ないでくれ」



 鋭い眼を向けられて下心はありませんといったふうにハムレットが両手を上げる。お前を敵には回したくないと冷や汗を流す彼にフランはどういうことだろうかと疑問符が浮かぶ。


 眉を寄せながら腰に手を回してアルタイルは「こいつには気をつけろ」と注意される。女にだらしないからないと。そういえばそんなことを言っていたなとフランは思い出した。



「いやいや! 流石にハンターの相方には手を出さないって!」



 そんなことして酷い目に遭いたくないとハムレットはぶんぶんと首を左右に振った。お前を怒らせて痛い目は見たくないと必死な彼の様子に、フランはアルタイルを怒らせると怖いのかと少しばかり怯える。



「フランを怖がらせるな」


「いや、お前が怒ったら怖いのは本当で……」


「それはお前たちが悪いからだろう」


「まぁ、そうっすね……」



 圧。それはもうすさまじい圧がハムレットを襲う。これ以上、フランを怯えさせるようなことを言えばどうなるかといったふうに。フランもそれは感じ取っていて、ひぇっと声を上げてしまった。


 これは離れようとフランが姿勢を正して椅子を引けば、アルタイルが眉を下げた。途端に放たれた圧は綺麗になくなってしまう。



「俺は別にフランに対して怒るつもりはないが……」


「あるかもしれないのでは……?」



 流石に許せる限度というのもあると思う。フランの返答にアルタイルはふむと考える素振りを見せてから、「少なくともお前の不幸体質で怒ることはない」と断言した。



「それ込みでお前を拾ったのだから怒ることはない」


「え、いや、え?」


「ハンターってもの好きだったんだなぁ。まぁ、いいや。これ以上、刺激したくないし、おれはこのへんで」



 報酬も払ったしなとハムレットは席を立って「じゃあ、またな」と爽やかな笑みを浮かべてギルドを出て行った。


 アルタイルの「もう来るな」という言葉など彼には届いていない。はぁとい小さく息を吐いてアルタイルは頬杖をつく。



「あれはまた来る」


「えっと、お友達なら無碍にしなくても……」


「あれと友人か……嫌だな」



 また面倒な依頼を頼んでくると何とも嫌そうにしているので、これ以上に厄介なものを引き受けた経験があるのだろう。フランは突かないほうがいいなと、「そうですか」と返事を返すだけにした。



「それはそれとして。フランは別に気にする必要はない」


「気にしますよ……」



 自分の不幸体質でどれだけ痛い目に遭ったかとフランは思い出す。どんなに頑張っても不運に見舞われるのだ、気にするなというのが無理な話だ。


 これのせいで自分はずっとソロで冒険者をやってきたのだから。騙されるのも、文句を言われるのも、巻き込まれるのも嫌なのだとフランは俯く。そんな様子にアルタイルは頬杖をついたままじっと見つめる。



「……あの、そんなに見られると、反応に困ると言うか……」


「……いや」



 いやと返事を返しながらもアルタイルは見つめてくる。あまりにも視線を逸らさないものだからフランは落ち着かなかった。


 暫しの沈黙。耐えかねたフランが話を振ろうとアルタイルを見遣れば、彼の手が頬に触れた。むにっと摘まんでから目の下の濃いクマを擦ってゆっくりと目を細める。



「……困り顔というのは、そうか……」


「え? なんですか、さっきから!」


「良いなと」


「何がです?」


「あぁ、気にするな」


「気にするんですけどっ!」



 一人、満足したようなアルタイルにフランが言葉を返すも、彼はなんとも楽しげにしている。急に不機嫌になったり、楽しんだり、なんだとフランはむっとしながらもほっとしていた。


 また文句を言われたり、パーティを解消されたりしたらと考えてしまっていたから。そんな不安を吹き飛ばすようにアルタイルは「次の討伐依頼を選ぶか」といつの間にか依頼書を取り出す。



「ケルピーも良いが、ジャイアントスパイダーも良いな」


「どっちもどっちだぁ」


「どっちもやりたいということか……なるほど」


「言ってないです!」



 ではそうしようと言い出して、フランは「待ってくださいぃ」とアルタイルに縋りつく。


 少しは私に合わせてくれないかという要望に彼は「合わせているのだが」などと返事が返ってきて、フランは「嘘だぁ!」と突っ込んだ。


 この瞬間、フランの不安などとうに消え失せて、アルタイルは彼女の様子に小さく笑みを作っていた。


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