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第12話 罠の発動、作戦の立て直し

 シャンシャンと鈴に似た音がけたたましく鳴り響く。あまりの音の大きさになんだとフランが慌ててアルタイルの背後に隠れると、彼の眉がひそめられた。



「シャーマンがいるな」


「え?」


「エリアに入った音に反応する罠が設置されている。おそらく、この罠を掻い潜った外敵用のだ」



 アルタイルの言葉にハムレットが急いで壁を触り、くそっと呟く。



「これはおれのミスだ。マジックトラップが仕掛けてあった」



 ハムレットの触った壁には親指ほどの大きさの歪な模様が描かれて淡く光っていた。


 フランも魔導士なのである程度の魔法は理解しているため、その歪な模様を見て「音に反応するものですね」とアルタイルの推察を肯定した。



「ハムレット。シャーマンがいるなら話が変わる。この先に迂闊に進むのは危険だ」



 ゴブリンシャーマンの成長度にもよるが成熟していた場合、扱える魔法が増える。統制力も高まるため、ゴブリンの動きが変わってくるのだ。


 魔法が使える敵というのは厄介だ。ただ、力任せに攻撃してくるのとは違い、魔法は遠距離で攻撃が可能だ。


 暗闇に、岩陰に隠れながらでも打つことができ、補助魔法などを使うこともできる。それらのことを考えて立ち回らなければならないので慎重にならざるおえない。


 魔法が既に発動している以上、相手には気づかれてしまっているため、不意打ちを狙うことが難しい。


 待ち伏せや他の罠のことを考えれば迂闊に進むことは避けるべきだ。アルタイルの冷静な判断にハムレットも「そうするしかない」と同意した。


 だが、このまま放置してしまうわけにはいかない。シャーマンがいる以上、勢力を高めて襲撃でもされれば、被害は大きくなってしまう。


 並みの冒険者たちだけでは手に負えなくなってしまうだろうと言われて、フランはどうしようと不安から紫水晶のロッドを握りしめた。


 急な状況であってもアルタイルは落ち着いていた。こういった経験は多々あるようで、「作戦を立て直す」と、現状を整理し始める。



「まず、既に相手に侵入は気づかれてしまっている」


「気づかれちまってるから、不意打ちは無理だな」



 不意打ちができないとなると相手を油断させての攻撃ができなくなってしまう。そうなると真正面からやり合うことになり、シャーマンの成長度合いによってはこちらが不利になる可能性があった。



「相手がどんなに少数であっても、シャーマンの成長によってはこちらが不利になる」


「そこだよなぁ……。シャーマンが厄介すぎる」


「こちらの状況を把握される前にどうにかできればいいが」


「把握されたらこっちが不利だ。どうしたものか……」



 二人が作戦を考えている中、自分も何かできないだろうかときょろきょろと周囲を見渡してから、壁に光る歪な模様を観察する。魔力を帯びているそれにフランはそっと触れてから、あっと気付いた。



「これ、下級魔法ですね」


「おれ、魔法に詳しくないけど下級とかあんの?」


「はい、ありますよ」



 魔法には魔物の危険度と同じで下級・中級・上級・特級とランク付けされている。


 初心者や見習いは下級魔法しか使えないが、中級者以降からは中級や上級魔法を覚えていく。魔導士になると魔法を見ればそれらを見極められるようになるのだが、フランも例にもれず判断できた。


 魔物であっても魔法の性質は変わらないようで、フランにはそれが下級魔法であることが理解できたのだ。



「魔物の魔法を判断する機会って頻繁にあるわけじゃないですけど、これは分かります。下級の中でも初心者が使うタイプのやつです。音に反応して音を鳴らすだけの魔法」



 人数などの判断できるような中級魔法以上のものではないフランが伝えれば、アルタイルはほうと目を細めた。



「こちらの人数が相手に伝わっていないなら話は変わるな」



 相手に人数を知られていないのであれば、別の方法で不意打ちを狙うことができる。


 下級魔法でも初心者が使うものということはまだ成熟していない未熟なシャーマンの可能性があった。その条件で六匹程度のまだ増える前ならば始末できなくはない。



「六匹程度でシャーマンに覚醒するとは……運の良いゴブリンだな」


「運の良いゴブリンの群れを放置はできんな。さらに覚醒されては面倒だ。シャーマンは俺が殺る」



 魔物討伐専門の冒険者である俺がやるべきことだとアルタイルは言った。


 それにはフランもハムレットも頷く、自分たちではシャーマンを相手にすることは難しいだろうと。こういったことはハンターである彼に任せるべきだ。



「シャーマンが未熟であると仮定しょう。二人は俺の指示に従ってくれ」



 迂闊なことはしないでほしいとアルタイルはそう言ってハムレットたちに作戦を話す。それを聞いたフランはえっと声を上げた。



「そ、それ、アルタイルさんが危険なんじゃ……」


「油断を誘うのにはこうするほうがいい」


「まぁ、どんな作戦にも危険は伴うし、ハンターなら大丈夫だろ」



 どんな作戦にも危険はあるものだというハムレットの意見に、それはそうだけれどとフランは思う、アルタイルにもしもの事があったらと。そんな心配に彼は「何の問題はない」と答えた。



「これぐらいの事ならよくあることだ。ドラゴンを狩るよりも楽だろう」


「ドラゴンと比べないでほしいのですけどぉ」



 ドラゴンと比べたら楽かもしれないが、ゴブリンよりも討伐が断然に難しいそうな部類の魔物と比べられても納得はできなかった。


 どんな作戦にも危険がつきものなのは分かっているけれど心配にならないわけではない。


 だから、フランは「危ないのには変わりないのでは」と言いかけるのだが、ハムレットに「嬢ちゃんはおれと頑張るんだぜ」と肩を叩かれてしまった。



「ハンターも頑張るけどな、おれらもやるんだぞ。危険のはどっち変わらねぇさ」


「それは……そう、ですよね……」


「ハンターのことを信じて今はやるしかないぜ」



 アルタイルのことは心配ではあるが、自分たちにも役割があるのだ。ハムレットの言う通り、今は彼を信じてやるしかないとフランはそう納得して頷いた。



「話は終わっただろうか? あと、数分も経たずにゴブリンたちが来る。何せ、音を感知したというのに何も現れないのだからな。不審に思って確認しにくるはずだ」


「それはまずい。急ぐぞ嬢ちゃん!」


「ふぇっ、は、はいっ!」



 ハムレットにばんっと腰を叩かれてフランはよろけながらも彼についてく。ちらりとアルタイルを見遣ると彼はすっと目を細めて先の見えない奥を見つめていた。


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