目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第11話 ゴブリンの罠

 暗い洞窟の中を光の玉がふわふわと浮遊しながら照らす。灯火の魔法で現れた光の玉はフランたちの歩幅に合わせるように前を飛ぶ。


 ランプや松明といったものを使わなかった理由は手を塞がないためだ。灯火の魔法は長時間発動可能なので利便性がよく、ダンジョン探索では必須な魔法なのだとハムレットが教えてくれた。


 魔導士ならば使えて当然の下級魔法なのでフランも扱えるものだ。こういったところで活躍する魔法なのだなとフランは知る。


 ひんやりとした空気の中を警戒しながら歩く。足音が響くだけで静かなものだが油断はできなかった。分かれ道が見えてきてハムレットが左を指さしながら「ここで繋がったんだよ」と話す。



「ゴブリンのやつらはまだ少数だ。調査したけど増えてはいない」


「増えると厄介だからな」


「今は巣を作るのに集中してるって感じだな」



 確認しただけで六体ほどの少数だと言うハムレットにアルタイルは「増える前だな」と呟く。


 巣の広がり方によってはあと二、三日で増え始めるだろうと。増えれば少数での討伐は難しくなると聞いて、ゴブリンは増えやすいとは知っていたフランはひえっと怯える。


 増えればそれだけ被害が出るということをハムレットも理解しているようで、「だから早く討伐はしておいた方がいいんだよな」と言っていた。


 ゴブリンは舐められがちな魔物ではあるが、数や種類によっては強力な勢力となる。


 冒険者に成り立てな初心者が油断して負けるといったことは多々あるらしい。フランはハムレットに「気を引き締めるんだぞ」と注意を受けた。



「でもなぁ……ゴブリンはなぁ、面倒なんだよ。罠とかも仕掛けてくるから質が悪くてさ」


「あぁ、それには同意できる。毒物も使ってくるからな、あいつらは」


「そうそう。毒物やら痺れ罠やらずる賢いんだよ、ゴブリンってさ」



 あいつらは手先が器用だから武器や罠を使ってくる。ハムレットはそこが面倒だといったふうに頭を掻いた。



「ひぇっ……そ、それ、私が居ても大丈夫ですか……?」



 罠を使ってくる、しかも毒物を平気で活用すると聞いたフランが恐る恐る聞けば、ハムレットは何がと不思議そうにした。アルタイルはすぐに察したらしく、「あぁ」と小さく返事をしてから顎に手をやった。



「毒物などを使用した罠の場合が危険か……」


「あー、罠はそうだな。それは危険だから気を付けないとな、嬢ちゃん」


「うぇえ……」


「フラン。前には出るな」



 フランの不幸体質のことを考えてか、「前には出す、周囲に目を配るように」とアルタイルに指示をされる。


 足元にも気をつけろと言われてフランは地面へと目を向けた。今のところ何かある様子はないなと観察していれば、ハムレットに「ちょっと止まってくれ」と止められる。


 なんだとハムレットの目線の先を見ると地面に擦れるようにきらりと何かが光った。あれはなんだろうか。フランが問う前にハムレットが慎重に近寄ってしゃがむ。



「ジャイアントスパイダーの糸で作った罠だな、これ」



 ハムレットは糸の先を辿るように灯火を飛ばすと、天井に仕掛けられている弓矢を見つけた。それを見て「あれは毒矢だな」とさらりと断言する。



「痺れさせるやつか、殺すやつか」


「ダンジョンと繋がっている部分に配置されているということは恐らくは殺害用だろう」



 ダンジョンに巣くう魔物たちが入ってこないための罠だなとアルタイルは推察した。ハムレットも同意しているので、恐らく当たっているのではないだろうか。


 フランはそっとアルタイルの背後に隠れた。今、自分が迂闊に動けば発動してしまいそうな気がしたのだ。



「外せるか?」


「おれを誰だと思ってるんだ。これぐらいの罠が外せなきゃ、ダンジョン探索なんてできないぜ」



 得意げに返事をしてハムレットは罠を解き始めた。細い糸を辿って弓矢と繋がっている箇所を見つけて解いていく。


 弓矢がどうやって飛ぶのか、その方向はと確認して「ハンター、右壁に避けてくれ」と指示を出す。その位置にいれば矢が当たることはないらしい。



「誤って発動した時の保険だ」


「あれぐらいならば切り落とすことはできるな」


「流石、ハンター様だな」



 その洞察力があるならダンジョン探索もできるぜとハムレットに褒められるも、アルタイルはおだてても無駄だと返す。



「お前とパーティを組んでダンジョン探索をするつもりはない」


「えー。つれないよなぁ」



 少しぐらい考えてくれてもいいだろとハムレットが言うも、アルタイルは眉を寄せるだけだ。


 何を言っても無駄であるというのはその表情を見れば分かることなので、ハムレットは残念そうにしながら罠を解いていく。ぶつぶつまだ言ってはいるが手を休めることはない。



「難しいですか、罠を解くのって?」


「うーん、慣れるまでは難しいかもなぁ。俺は割とすぐに覚えたから難しいって感覚ではなかったけど」



 手先が器用だったし、仕掛けられた罠の特性を把握するのは得意だったからなと、ハムレットは答える。才能があったということなのだろうなとフランは解釈する。



「最初の頃はミスって死にかけたりもしたけど今じゃそんなのも少なくなったなぁ。懐かしいぜ」


「そうなんですね。あ、邪魔しちゃいましたかね……」



 流石に罠を解除しているのに話をし過ぎたかもしれないとフランが謝れば、ハムレットは「問題ないぜ」と軽く返事をした。



「あー、いいよ。気にしなくても」


 ハムレットは「これぐらいなら話しながらでも解除できる」と笑っている。何の問題もないというのは彼の様子を見れば分かることだ。喋りながらできるというのは凄いなとフランはその様子を眺めた。


 そう長くもかからずに無事に解除できたようで、「もう大丈夫だぜ」とハムレットは通り抜けてみせた。


 罠が発動することはなかったので、アルタイルもそれに続けて行く。二人が無事に通ったのを確認してからフランも続いた。


 動く気配のない罠にほっとフランが安堵するもふと、匂いに気づく。それは鼻につく変な匂いだった。


 なんだろうかと思うよりも早く、鼻がむず痒くなってくしゅんと小さくくしゃみをしてしまった――瞬間だった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?