連なる山の中腹まで登ってフランは疲れていた。森の中を歩くのと違って足は痛くなり、息が上がってしまう。
登り慣れていないのはそれだけで分かることで、ハムレットには「嬢ちゃんにはダンジョン探索は向いてなさそうだな」と言われてしまった。
ダンジョンというのは平地にできるものではない。険しい山や遺跡などが殆どなので、体力がなければやっていけない。
訓練していけば体力はつくかもしれないが、一日二日で身に付くものではないのは長年、ダンジョン探索をやってきたハムレットの姿を見て分かることだ。
(アルタイルさんも平気そうですし、やっぱり私って冒険者のくせに体力がないなぁ……)
隣を歩くアルタイルの姿を見てフランはへこむ。魔物討伐専門の彼も疲れた様子を見せていなかった。それは山の中でも魔物を討伐してきているということでもある。
(私も体力つけないとなぁ)
体力の無さでアルタイルに迷惑はかけたくないと、フランは体力づくりをしようとひっそり決意する。
「こっちこっち。あそこだよ」
ハムレットはそう言って指さした。木々をかき分けた先、高い岩壁にぽっかりと口を開いたかのように穴がある。先の見えない大穴の前に数人の男女が立っていた。
彼らがハムレットの言っていた他のパーティメンバーのようだ。彼の姿を見た冒険者たちが「やっと戻ってきた」と声をかけてくる。
「遅いぞ、ハムレット」
「いやー、申し訳ない。でも、ハンターは連れてきたから安心してくれ!」
ハムレットは返事を返すとアルタイルのことを紹介した。その場にいた数名の冒険者はアルタイルのことを知っていたらしく、あの彼がと少し驚いた様子だ。
どうやら、どんなに優遇されてもパーティの誘いを断り続けているハンターとして有名らしい。
アルタイルはといえば注目されて眉を寄せていた。ちらほらと小声で何か言われているのが不愉快なのも原因なのか、表情には出さないけれど雰囲気が不機嫌だと主張している。
アルタイルの様子など他の冒険者は気づいていないようで、「どうやって知り合った」と騒いでいる。
フランは隣に立っているので何となく察していた。ハムレットも気づいているようで「そんなことはいいから!」と、集まる冒険者たちを落ち着かせて話を戻す。
「ゴブリンの巣はおれとハンターたちでやるから、あんたらは待っていてくれればいいぜ!」
「三人で大丈夫なのか?」
「むしろ、少数精鋭のほうがやり易い」
ふくよかな男の冒険者の問いにアルタイルが答えた。狭い洞窟の中で戦うならば、人数はすくないほうがいいと。
人が多ければそれだけスペースを取ることになり、動きに制限がかかってしまう。三人いれば、何かあったとしても一人を連絡係として外に出すこともできるので支障はないと説明すれば「でもなぁ」と、他の冒険者は心配げだ。
「ハムレットの戦闘スタイルを俺は理解している。だから、彼が同行することには問題がないが他の冒険者は違う。知らない冒険者と協力するというのは悪いことではないが、即興で組んだパーティにチームワークを問うのは難しいことだ」
戦闘スタイルというのは冒険者によって違いがある。それを理解していない状態で魔物と対峙することは危険な行為だ。ならば、それらをよく理解しているメンバーで組んだほうが安全だ。
アルタイルはハムレットとフランの戦闘スタイルを知っているから対応ができる。フランもハムレットもアルタイルに合わせることができるので邪魔になることはない。話を聞いた冒険者は「それはそうだな」と頷く。
「せめてあと二人ぐらいはいたほうがいいのではないか? オレとかこいつは魔物を倒すのには慣れているし、ダンジョン探索の知識も……」
「ダンジョン探索の知識ならハムレットにもある。こいつは罠を解くのが上手いから問題はない。魔物討伐はハンターである俺に任せてくれればいい」
この中に俺以上に魔物に詳しく、戦い慣れている冒険者がいるならば同行しても問題ないが。アルタイルの言葉に冒険者たちは顔を見合わせた。Sランクのハンターの称号を持っている冒険者以上など限られている。
そう言われては誰も名乗りを上げることはできなかった。まだ何か言いたげな冒険者もいるけれど、ハムレットに「おれがいるから大丈夫だって」と声をかける。
「ハンターとは知った仲だし、おれはダンジョン探索熟練者だからな!」
「まぁ……お前は罠を解くのは得意だしな……わかったよ」
一応は納得したといったふうの冒険者たちにアルタイルは「話が済んだのならば魔物討伐に移らせてもらう」と、彼らの返事も聞かずに洞窟の入口へと歩き出した。
「あたいらはここで待機しておくよ。何かあったらすぐに知らせてくれ」
「おれに任せてくれれば大丈夫だからな!」
逞しくみえる女の冒険者にハムレットは胸を張りながら返事を返して、慣れたように先頭に立つと洞窟へと入っていく。
ダンジョン探索の経験が豊富だからなのか、恐れることもなくすいすいと進んでいく姿に、フランは凄いなと感心しながら続いていくアルタイルの隣をついていった。