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第9話 飛び込み依頼

 サレタージャのギルドに戻ったフランは奥のテーブル席で軽食をとっていた。フルーツの盛り合わせを食べながらフランはアルタイルの様子を眺める。


 猛禽類のような緋色の眼が依頼書に向けられていた。ペラペラと数枚の紙を見比べている姿というのは傍から見れば格好良く見えるのではないだろうか。


 アルタイルはフランよりも年上ではあるがまだ若く、端正な顔立ちをしていることから町を歩くと少し目立つ。通りすがった女性陣に「格好良い」と言われるぐらいには。


(劇団とかに入ったら女性人気高そうだなぁ)


 劇団の役者とかになったら人気が出そうだなとか呑気に考えていると、依頼書に向けられていた眼がフランへと移った。



「どうした?」


「え! いや、次はどれにするのかなぁって……」



 勝手に容姿のことでいろいろ想像されては気分を害するかもしれないとフランが誤魔化すようにそう返せば、アルタイルはあぁと依頼書をテーブルに置いた。



「二つに絞ったが、もう少し考えさせてくれ」


「分かりました」


 アルタイルに「お前が居ても問題ないか、どういった作戦でいくか考えなくてはならない」と説明された。


 フランだけでは討伐する魔物と、どういった方法で倒すかを決めることは難しい。場所や天候、数によって作戦というのは変わってくるのだ。


 次はどの魔物を狩るのかなとフランは皿に盛られたオレンジをフォークで刺して口に運んだ。みずみずしい酸味に疲れが癒えていくのを感じる。


 ソロ活動中の頃は節約のためにフルーツなど食べることはできなかったので、食べる物全てが新鮮で美味しかった。


 次は何を食べようとフルーツの山を眺めていれば、「ハンター!」と大声で呼ぶ声がする。


 なんだと顔を上げれば、ズザザッという音がする勢いで床を滑って軽鎧に身を包む金髪の青年が土下座していた。その綺麗すぎる素早い土下座にフランは目を瞬かせる。



「ハンター!」


「断る」


「まだ! 何も、言っていない!」


「聞かなくとも分かる。また面倒なことを頼みに来たのぐらいな」



 何とも冷たくアルタイルは返す、依頼書から目を離すことなく。そんな彼の態度にもめげずに金髪の青年は土下座をやめることなく、聞いてもいないのに喋りだした。



「ゴブリンの巣がダンジョンに生えたんだよぉぉ」



 サレタージャから少し離れた連なる山ではダンジョンが発見されることが多い。今回、発見されたダンジョンもその一つだったのだが、どうやら、近くにあったゴブリンの巣とくっついてしまったらしい。


 ダンジョン探索を専門に扱っているいくつかの冒険者パーティが調査していたのだが、そのゴブリンの邪魔にあって困っているのだという。


 パーティ同士で相談した結果、先にゴブリンの巣を駆除してからにしようと決まったのだと。



「ハンターが適任だろー!」


「ゴブリンぐらいならば俺以外の魔物討伐専門の冒険者でも問題はない」


「あんたじゃないと困るんだよぉぉ」


「どうせ、知り合いにSランクのハンターがいるなどと自慢したのだろ」


「うぐぅっ」



 図星を突かれたのか金髪の青年は呻いた。分かりやすいどころではない反応にフランは困惑しながら、彼とアルタイルを見遣る。


 視線に気づいてか、アルタイルは「ちょっとした知り合いだ」と教えてくれた。



「彼の名はハムレット。ダンジョン探索をメインに護衛依頼などもする冒険者だ」



 ハムレットと紹介された青年が顔を上げてフランに挨拶をする。土下座を止めることのない彼の様子にフランは諦める気はないのだろうなと、挨拶を返しながら察した。


 ハムレットは女性受けしそうな爽やかな笑みをフランに見せてからまた頭を下げた。頼むよと引く気の見せない彼にアルタイルがそれはもう嫌そうな顔を向ける。



「お前が俺に頼んでくるのは何度目だろうな?」


「ハンター、お前は自分がこなした依頼の数を覚えているのか?」


「開き直るな」



 顔を上げたハムレットの頭をアルタイルは依頼書で叩く。それでもめげない彼は「報酬金は弾むから!」とアルタイルの足に縋りついた。



「頼むよぉぉ。みんな、Sランクハンターに期待しているんだよぉぉぉ」


「洞窟だろう。太刀が使えんな」



 アルタイルは縋りついてくるハムレットにはぁと息を一つ吐いてから答えた。洞窟での戦いというのは武器種を選ばねばならないと。


 狭い洞窟でロングソードや太刀といった武器は天井に当たったりしてしまい動きが制限される。短刀などの短い武器でなければならず、慣れてないものでは思うように戦うことができない。


 アルタイルの武器は太刀なので洞窟での戦闘は難しいなとフランでも気づくことができた。


 魔法が使えるので太刀が無くても戦えるかもしれないが、それでは心もとないのではないだろうか。そんなことを考えていると、アルタイルは「脇差を使うか」と顎に手をやる。



「あまり使っていないが……まぁ、やれなくはないだろう」


「じゃあ!」


「受けるとは言っていない」



 できるか、できないかと答えるならばできるというだけだとアルタイルに言われて、ハムレットは「意地悪するなぁ」と掴んでいた足を揺らした。



「報酬金は出すって言ってるだろぉぉ」


「お前は本当に面倒だな……」


「おれはハンターが受けるって言うまで、お前の足に縋りつき続ける」


「余計にうざったい……はぁ……」



 疲れた溜息が零れた。アルタイルは手に持っていた依頼書をテーブルに置いて頬付けをつく。


 諦めたようにも見えるその態度にハムレットは「流石、ハンター!」とそれは綺麗な顔立ちに映えるそれはもう爽やかな笑顔を見せた。



「ハンターなら受けてくれるって信じてたぜ!」


「その代わりお前も手伝え。報酬金は二人分、上乗せだ」


「え、二人分?」



 はてとハムレットが首を傾げるのを見てアルタイルがフランを指さした。彼女は俺のパートナーだと教えられて、信じられないといったふうにハムレットの表情が変わる。


 それはもう露骨に嘘だろといった態度にフランはそこまで驚くことだろうかと不思議そうに見つめた。



「めっちゃ、美人でスタイルの良いカワイ子ちゃんに誘われても靡かなかったお前が!」


「変な言い方はやめてくれ。彼女は俺の興味を掻き立てた、だから拾ったんだ」



 どんなに優秀だろうと美人だろうと興味がなければ拾わないと言い切られて、ハムレットはどこにとますます疑問をいだいた表情を見せる。


(不幸体質なんだよぁ、興味持ったところって……)


 だって、面白いって言ってたしとフランは苦く笑う。自分の容姿や実力に惹かれる要素がある自信はなかった。



「そもそも、フランは可愛らしい顔立ちをしているだろう」


「はぁ?」



 フランは思わず、呆けた声が出てしまった。何を言っているのだとアルタイルを見遣れば、彼はいたって真面目な顔をしている。


 真面目どころか少し不機嫌そうだ。それに気づいたハムレットが「悪かったって!」と慌てて謝った。



「失礼なこと言ったよ、悪かった。嬢ちゃんもごめんな?」


「え? 大丈夫ですけど……」



 それよりもさっきの発言とフランが聞こうとして、アルタイルが「さっさと終わらせるぞ」と立ちあがってしまう。



「面倒事は早めに片づけた方がいい」


「おれのこと面倒な奴だと思わないでくれよ、ハンター」


「面倒だろうが」



 お前は実力はそこそこあるくせに女にだらしないのを直せと冷たく指摘されるも、ハムレットは「無理」と即答する。そのあまりの早さにアルタイルだけでなく、フランも呆れてしまった。


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