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第8話 不幸体質の何処が面白いのか

「特に問題はないが?」


 えっと声が出た。アルタイルは呆けた声を出したフランを不思議そうに見つめている。



「ほ、本当です? アルタイルさん一人ならさくっと終わらせられたんじゃ……」


「それでは面白みがないだろう」


「今、面白みって言いました?」



 じとりと見遣ればアルタイルは何のことだろうなといったふうに視線を逸らした。


 これの何処が面白いというのだとフランは頬を膨らませる。そうするとアルタイルは「お前が酷い目に遭っているから面白いわけではない」と話した。



「お前がただ酷い目に遭うのは見たくもないし、そうした相手は容赦なく始末しよう」



 アルタイルの言葉の意味が理解できずにフランが眉を下げると、彼は「何が起こってどういった不運に見舞われたのか、それが重要だ」と説明する。


 ただ、フランが酷い目に遭うのは面白いとは言えない。不愉快にしか感じないし、苛立ちしかない。


 例えば、最初の出逢いの時のエアウルフたちの一連の流れと顔面激突というオチは不幸体質の連鎖が綺麗に重なっていた。だから、面白いと感じたのだと、アルタイルは話す。



「今回もキマイラの突撃が離れていた岩石獣に当たるという流れが面白かった。そのまま追い掛け回されるという流れも綺麗だったが、そこまででお前が傷つくことは面白くない」


「えーっと、不幸の連鎖の過程が面白いってことですかね?」



 私が酷い目に遭うのは気に入らないけど、不幸の連鎖の過程は面白いということか。フランの解釈にアルタイルは「そんなところだな」と返す。いや、分かりにくいのですがという突っ込みは彼には通用しなかった。


(アルタイルさんってちょっといや、結構、変わってる人なのかも……)


 普通、自分が巻き込まれるかもしれない不幸な連鎖というのを面白いという理由で許す人というのは少ないのではないだろうか。


 他所から見ているならば馬鹿な事をやっているなと楽しめるかもしれないが、自分に飛び火するかもしれないのだ。


 今だってアルタイル一人であれば、岩石獣を起こすことなく簡単にキマイラを討伐できただろう。面倒なことにしてしまったというのに彼は気にしていなかった。


 不幸の連鎖の過程が面白ければいいといった考えなのかもしれないが、フランにはそれの何処が良いのか分からない。「どんくさい」や「お前のせいで」と文句を言われ続けてきた身には理解ができないのだが、アルタイルは別に気にする必要はないと言う。



「お前はそのままでいればいい」


「でも、気をつけないと何が起こるか分かりませんし……」


「その時は俺が対処する」



 不幸体質だというのを知った上でお前とパーティを組んでいるのだからと言われて、フランは納得できなかったけれど本人が気にしていないのならいいかと頷く。



「あっ! キマイラは……」


「始末しておいた」


「うぇえっ! いつの間にっ!」


「お前が追いかけられた辺りだな」



 岩石獣に追いかけられていては気づかないだろうとアルタイルは話す。それはそうかもしれないが、さくっと倒し過ぎていないだろうか。これがSランクハンターの実力なのか。フランは自分の弱さに少しへこんだ。



「どうした?」


「私って弱いなぁって……」


「フラン。お前はただ、魔物との戦い方が分かっていないだけだ」



 フランの力が弱いわけではなく、魔物との戦い方を理解できていないだけだとアルタイルは説明する。どんなに力がある冒険者でも魔物との戦い方を知らなければ、喰われて終わるのだと。


 魔物の種類や場所によって戦い方というのは変わってくる。それらは経験していかなければ覚えることはできない。フランは今、訓練中なのだとアルタイルに言われた。



「それにしてもスパルタすぎません?」



 いくら、訓練中とはいえ、「まずは一人で戦ってみろ」は酷すぎないか。フランの抗議にアルタイルは「俺はそう教わったが」と返される。



「俺の師はそういう教え方だったが……フランには厳しいのか……」


「はい、厳しいです」


「気にかけておこう」



 そうかと顎に手をやって返事をするアルタイルにフランは話を聞いてくれるのだなと、少し安心した。


 何せ、今まで自分の主張など聞く耳を持ってくれるどころか、文句しか言われたことがなかったのだ。耳を傾けてくれるだけでも嬉しかった。


(自分の主張を聞いてくれるってこんなに安心できるのかぁ)


 フランはほっと息を吐いた。



「依頼は終えた。ギルドに報告に戻ろうか」


「あ、はいって、ちょっと待ってください」



 歩き出そうとしたアルタイルが何だと振り返って目を瞬かせる。フランはハンカチを取り出して、彼の頬を彩っていた返り血を拭った。



「その見た目は流石に怖いですよ」



 返り血が頬に付いたままというのは傍目から見れば怖いのではないか。フランはそう思ってアルタイルの頬を拭いたのだが、彼は反応せずじっと見つめてくる。



「アルタイルさん?」


「…………」


「アルタイルさん、あの……拘束しないでくれませんか?」



 これとフランは腰に回る腕を指す。腰を抱くなどと甘いものではなく、獲物を逃がさないといった拘束をフランはされていた。身動き一つでもすれば腰を締め上げられるのではといった感覚だ。


 すっと細まる眼にフランは勝手なことをしてしまっただろうかと焦っていると、アルタイルはゆっくりと拘束を緩めた。



「……なるほど」


「えっと?」


「いや。急に間合いに入られたのでな」



 つい、拘束してしまったと言われてフランはつまりと考える。


(あれかな。自分の間合いに入った獲物を捕らえるとかそういう動作が発動したのかな?)


 危機管理能力が高いから咄嗟にその動作をしてしまったのだろうか。声をかけてからすべきだったかとフランは反省した。



「すみません。言ってから拭けばよかったですね」


「気にはしていない。いないが」


「いないが?」


「その行為は俺だけにするように」



 他人にはやらないようにと指示されてフランは不思議に思うも、アルタイルのように間合いに入られてそういった動作が出てしまう冒険者もいるかもしれないからかと解釈する。


 人によっては間合いに入られるのは嫌だと感じるかもしれないよなと、フランは気をつけることにした。




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