ついに出張当日。
萌は飛行機の窓から空を眺めながら、今朝の場面を思い出して自然と口角が上がってしまっていた。
前日の夜眠る時も、昇はやたら萌にくっついてきた。
「抱き締めながら寝かせてください。」
なんて、切なそうに言いながら。
そして今朝も、家を出る際にギュッと抱き締めてきて、「無事に帰ってきてくださいね。連絡は毎日必ずくださいよ。」と何度も言われた。
そして、
「キスしてもいいですか…?」
なんて、留守番の子犬みたいな目で言ってきたのだ。
あんなに可愛い一面があったとは思いもよらなかったので、萌の母性本能がくすぐられた。
同時に、なんだか行くのを躊躇してしまうくらい名残惜しくも感じた。
なにも永遠の別れじゃないのに私たちって大袈裟なバカップルみたい……
と心の中で苦笑いする。
なんだか最近、ますます昇が魅力的に見え、確実に好きになってきている自分に気がついている。
恥ずかしくてそんなことは言えないし、平静を装ってはいるが。
萌は変なところで意地っ張りだ。
婚約当初、隙を作らないようあんな強気な女を気取っていたのに、気がつけばどんどん絆されていっている自分がまるで負けている気がして、意味のない敗北感というか、劣等感を感じているここ最近である。
「あれ……私ってもしかして…ツンデレってやつなのかな……」
「何か言いました?」
「あっ、いえ!空が綺麗だなって…!」
隣の席にいる王谷はいつにも増して一段とオシャレに見える。
普段の社内の女性たちが見たら大興奮だろう。
そんな人気者のモテ男を独り占めしてしまっているなんて、きっと今頃嫉妬されているに違いない。
それでなくても普段から結構嫉妬されているのは知っている。
昇を少しでも不安にさせたくなくて、今日はわざと普段より地味な服装にし、化粧だって薄くした。
隣の人とアンバランスだと自覚しているが、デートではなくただの仕事だ。
とはいえきっと、はたから見たらデート旅行のカップルに見られているかもしれない。
「それにしても、本当に大丈夫でしたか?あの旦那さんは。」
「えっ、あぁー、話し合ったので大丈夫です。心配性なのは分かってたんですけど、結構嫉妬深いのは私も初めて知りました。」
「そっか。なんか結婚生活って大変だね。」
そういえば……と今更ながら萌は思った。
王谷さんはこのルックスに優しくしっかりした性格で仕事もでき、その上チャーミングな1面もあったりして、ある意味非の打ち所のない男性なのに、なぜ結婚していないのだろう?
ものすっごくモテるのに、彼女もいないらしいと噂で聞いた。
だから周囲の女性社員たちはこぞって彼を狙っている。しかし、皆ことごとくサラリと流されているらしく、まるで恋愛に興味すらないように見えると言うのだ。
" 逆にそこがますます燃えるのよね〜!チャラくないってのがいいわ〜"
" うちらん中ではもはや手の届かない王子様ってかんじだよね"
" 目の保養だしいつも優しいし素敵すぎるっ…"
" クールでかっこいい見た目なのに、結構甘くて可愛い中身が最っ高なのよね〜"
そんなふうに社内では言われている。
入社してから王谷をそばで見てきた萌だが、女の影は確かにないように思える。
が……いや……もしかして、隠しているだけで本当はいるのかな…?とも思う。
だって人間なんて、実際考えてることや普段していることなど表向きと外向きは誰もが違う。