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第87話

「嫌、でしたか?」


「嫌なわけないです…。あんなこと、初めて言われたから……嬉しくて、でもっ…恥ずかしかったんです……」


俯いていた赤い顔をゆっくり上げると、昇も少し火照った顔でこちらを真っ直ぐ見つめていた。

ドキッと大きく鼓動が跳ねる。


「萌さん。じゃあもう一度ちゃんと、言ってもいいですか?」


「え……あ……」


そんなに整った色っぽい顔で言われたら……

断れるわけないじゃん……

この人って無意識にこうなのかな……

その顔で、本当に言うの……?


「っ……はい。」


小さく頷くと、昇は目を逸らさないまま言った。


「愛してます、萌さん。

ずっと昔から、この世で一番、愛してます。

だからこの先の将来も…萌さんと一緒にいたい…」


「の、ぼるさ……っ」


キュッと締め付けられるような心臓の高鳴りと同時に、キスをされていた。


後頭部に昇の指が滑り、柔らかい唇が明らかに自分の唇に優しく押し付けられていた。


ゆっくりと離れていき、目と鼻の先で見つめられる。

その色気のある潤った目が細まったかと思えば、また唇が重ねられた。


「……っん、……」


突然の舌の感触に、思わずビクッと反応してしまう。


「あ…っ、すみません…つ、つい…っ」


その反応に昇が急いで離れた。

濡れた唇と、はだけたシャツから見える肌。

萌はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「これも、もう一度お願いします。」


一瞬驚いたように表情を変えた昇だったが、悩ましい笑みを浮かべてこう言った。


「……止まらなくなっちゃいますよ…」


「…いいです。」


すぐに、今度は噛み付くように唇を奪われた。

片手を握られ、もう片手で後頭部を押えられる。

そのままゆっくりと押し倒された。

互いの絡まる舌と、滾ってくる体温、大きくなる息遣い……


「ん…っ、は…ぁ……っ」


言った通り本当に止まることはなく、そのまま数分間もキスが続いた。


ようやく解放された時は、萌の全身の力は完全に抜けていて、トロンとした目で口から唾液を垂らしていた。


「も、萌さん……」


昇を見上げるその姿に、昇は全身の血流が速くなるのを感じ、喉を鳴らした。


つい手を伸ばしてしまったが、理性を振り絞って引っ込める。

本当は今すぐ萌を思い切り抱きたいと思っているが、本気で愛しているのは自分の方だけなので、内心は嫌に違いない。

もしかしたら優しい彼女はされるがままの可能性もあるが、だからと言って一方的に迫るのはただの強姦だ。

いくら抱きたくても、嫌がることは絶対にしたくないし、そもそもつい我慢できずにキスなんかしてしまったが、本音はこれすらも嫌だったかもしれないし。


「の、ぼるさん…?」


「っ……」


そんな顔で見つめないでほしい…!

理性が効かなくなりそうだ!


もう一度なんてせがまれたから調子に乗ってしまったが……

かなり深くて激しいキスをしてしまったんじゃないだろうか…?

手が早くて強引な男には絶対に思われたくない。絶対に嫌われたくない。


などとごちゃごちゃ考えながら、昇は気持ちを切り替えるため、軽く深呼吸をした。


「お腹、空きましたね。何か作りましょうか。」


「えっ?…あ、はい…」


切り替えが早すぎる昇に内心混乱したが、萌はキスしている最中、ある事に気付いていた。


硬いの当たってた……のに……

この人大丈夫なのかな…?

絶対にあのまま先に行くって覚悟してたのに……

そもそもキスだって、夫婦なのにようやく初めてなんて……


なんだかあまりにも自分たちの展開が遅くて悶々としてしまう。

そしてもう1つ萌は気がついてしまった。

自分はそのような展開に、少なからず期待をしていたのだと。


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