昇はぼんやりと目を開けた。
視界に映っているものが、自宅の寝室の天井だとわかり、頭の中でここに寝る前の記憶を辿る。
徐々に、リビングで4人修羅場のような状況になったことは思い出したが、いつの間に解散してどうやってここに横になったのかが思い出せない。
はぁ〜…と息を吐きながら体を起こすと、自分の額からパサっと湿ったタオルが落ちた。
サイドデスクには水とタオルが置いてある。
反対側に目をやり、ドキッと一瞬驚いた。
萌がこちらを向いて寝ているからだ。
「もしかして……」
倒れてしまって、萌さんが看病してくれた?
水枕もあるし、すっかり体調は戻った感覚がする。
壁時計を確認すると、まだ夕方の6時だった。
「ん……あ……あぁ私まで寝ちゃって…」
萌の目が開き、目が合う。
「あ、萌さん…あの……もしかして僕を運んでくれました?」
「いえ、まさか。王谷さんと駒井さんと協力して運びました。」
「えっ…それは大変ご迷惑をおかけしました。」
「体調大丈夫ですか?驚きましたよ、昇さん突然倒れるんだもん…」
「すみません…。また一時的なもので…なのでもう大丈夫です。ありがとうございました。」
気まずさに耐えきれずベッドから出ようとすると、萌に腕を掴まれ、心配そうに顔を覗き込まれた。
「それは本当ですか?また、無理してないですか?」
「っ……」
昇は衝動的に萌を抱き締めてしまった。
そんなふうに誰かに優しい言葉をかけられ、心配されることなどないため、思わず涙腺が緩む。
「えっ、昇さ」
「夢を見ました……いつも見る夢です。」
「……またですか?どんな?」
「……聞いてくれますか?」
昇はいつもの夢を見ていた。
いや、厳密に言えば、幼い頃の記憶だ。
幼い頃から、たまにこうして熱が出るたびに同じ夢を見て、泣きながら目が覚めることもあった。
「どうして泣いてるの?」
ある日昇は、1人の女の子に話しかけられた。
自分と同い年くらいの、ランドセルを背負っている可愛い少女だ。
「な、泣いてないよっ」
「嘘。人が泣いてないって言う時は、絶対泣いてる時だって私知ってるもん」
女の子は心配そうに昇の頬を掴んだ。
昇の心臓が跳ね上がる。
「熱い!具合悪いの?」
まつ毛が長くて綺麗な瞳が今にも触れそうな距離でこちらを見つめてくる。
「っ……頭が痛いんだ……いつも……。父さんが言うには、僕の病気は一生治らないんだって。長く生きれないんだって。だからもうどうでもいいんだ。なにもかも……」
女の子の目が大きく見開かれ、表情は強ばっていく。
こんなことを突然言われたら、そりゃあそうだろう。
一生治らない病気なんてきっと、他の子たちと同じように、感染やら何やらを恐れて逃げていくだろう。
他の子たちと同じように、僕には近寄らなくなる。そして僕はまた……一人ぼっちだ。
僕の頬からゆっくりと手が離れていく。
ほら……ね。
皆誰しも、自分が一番大事なんだ。
けどそれも別にどうでもいい。