「……着きました。ここです。」
セキュリティ厳重なこの高層マンションは、部屋のドアもカードキーだ。
カードを翳してドアを開け、すぐに振り返ってお礼を言おうと思っていた。
のだが……
「……え?」
「どうしたの?」
ピタリと止まって、振り返ることができなくなった。
なぜなら玄関には、昇さんの靴と、明らかに女性の靴があったからだ。
「…ん?……え、うそ……旦那さんと、誰か他にいるの?」
「そう…みたいですね……」
「……微かに声もするね……。僕が見てこようか?」
優しい王谷さんはいろいろ察してそう言ってくれたが、流石に関係の無い人を妙なことに巻き込むわけにはいかない。
「わ……私が行くので大丈夫です…」
「じゃあ一緒に行こう。今の状態の本條さんがとにかく心配だから。」
どうしてここまでしてくれるんだろう……
普通だったら、みんな修羅場なんかに絶対巻き込まれたくないはずなんだけど……
ていうか……
そもそもこの状況はなんだ……。
私は一体今から何を見てしまうのか。
まさかこの時間に昇さんが家にいて、しかも女の人を連れ込んでいるなんて1ミリも想像したことがなかった。
今までも、私が知らないだけで、私に隠れてうちで女性とあんなことやこんなことをしていた……?
でも確かに、そりゃあ昇さんだって男なんだから、あらゆる欲は溜まるだろう。
考えてみたら私たちは体の関係は一切持っていないし、触れてすらない。
つまり彼は普段から性欲を発散させる機会は作っているはず。
そしてそれはもしかしたら、私なんかよりもっと若くて綺麗な人……
そういう人がいいに決まっているし、まして昇さんはお金があるからそういった対象はいくらでも用意できるだろう。
いや、そもそも相当モテるはずだから、何人もの女性と本当は関係があって……
あらゆる妄想がポンポンと頭に浮かんでくる。
今日はなんでもかんでもネガティブにしか考えられない日だ。
「……じゃあ、開けますね…」
「はい……」
生唾を飲み込んだ。
このドアの向こうには、一体どんな光景が広がっているのだろう……
その時の私はどうなってしまうのだろうか……
まず目に飛び込んできたのは、ソファーに寝ている昇さんと、昇さんに覆い被さるようにして体を近づけている見知らぬ美しい女性だった。
「……えっ?あっ……!」
こちらに気づいた女性は慌てて昇さんから降りた。
「っ?!も、萌さん?!なぜっ?!」
続けて昇さんもこちらに気づき、まるでお化けでも見るかのように顔色悪く狼狽えている。