ということで、
気がつけば本当に王谷が運転する社用車で家に送り届けられていた。
「あ……えと…本当にすみません。ご迷惑おかけしました……」
「全然大丈夫だよ。ところで何度も言ってるけど、仕事以外では敬語やめてよ。なんかすごい距離感感じちゃうじゃん。」
「いや、でもっ……王谷さんは上司なわけだし、2人の時にタメ口使ってたら、きっと職場でも出ちゃいますよ、私器用じゃないんです。」
きっと2人きりの会話にちょこちょこタメ口を挟んでしまっていたのも、昇のスパイが報告して勘繰られたのだろうと思う。
迂闊だった……
やっぱり王谷とは仕事上の関係で、それ以上でも以下でもないんだから、ちゃんとしよう。そう思ったのだ。
「それにしてもビックリしたよ。本條さんがそんなにメンタルやられていたなんて……。気付けなくてごめんね。それこそ上司として失格だ。」
「そっ、そんなことないです!私がただちょっと……プライベートと仕事の切り替えができてなかっただけで……本当にすみません…」
王谷は心配そうにバックミラーで私を見た。
「まぁ…何かあったなら遠慮なく頼ってよ。」
「………。」
ようやく我に返って来た。
私って何やってるんだろう……
いきなりなんの前触れもなく泣き出して、まるでメンタル病んでるどこぞのメンヘラみたいじゃないか。
会社のみんなに絶対に幻滅された。
みんな優しいから態度にも言葉にも表さないだけで、内心呆れているに違いない。
もしかしたら、こんなメンヘラ女置いとけないってクビになるかもしれない……
「……本條さん?聞こえてる?家の鍵は?」
「っえ?あ、はい……」
オートロックのマンションの入口でボーッとしてしまっていたことに気がつき、慌てて鍵を取り出し扉を開ける。
「……とりあえず家の中に入るところまでは送らせてね。なんか今の本條さん、相当やばそうだから……」
「すいません……」
肩を優しく支えられてエレベーターに乗り込んだ。
グングンと上へ上がっていっているのだけはわかり、しばらく何も考えられずに呆然としていた。
到着階で扉が開き、王谷さんがリードしてくれた。
「行こう。……本当に大丈夫?」
「は、い……」
ていうか……
……あれ?
確か私ボタン押してないのにどうしてこの階へ?
40階って、王谷さんに言ったっけ……
やばい……そんなことすら無意識なんて……
「あのさ……何があったか知らないけど、僕でよければ何でも聞くからさ。遠慮なく話してね。もちろん話したくないことを無理にとは言わないけど、でも少しでも誰かに話すと心が楽になることあるし。」
「はい……本当にすみません……ありがとうございます……」
いや……さすがに、原因はあなたの話です。なんてこと言えない。
「もし明日出勤できるようだったらさ、一緒にパン屋行こうか!実は本條さんに食べて欲しい新作を見つけちゃったんだけど、なかなかユニークなんだ」
王谷さんは本気で心配してくれていて、精一杯励まそうとしてくれている。何があったかも聞かないでいてくれる。
その優しさは、いつも以上に伝わってくる。
私、やっぱりこの人となら良い仕事ができそうだし、函館の出張には行きたいな……