「わぁ……おいしい〜っ!このチーズ濃厚でとても美味しいです!」
憧れていたチーズフォンデュを、この歳にして初めて食べたのだが、とても感動してしまった。
もしかしたら、この間思ったみたいに、こうして好きな人たちと食べているからかもしれない。
「このチーズはうちのイタリアンレストランの仕入先から直輸入してるものなんです。ローマにある有名な店のもので、数年前に僕がシェフと実際にその店へ行って厳選してきたものなんですよ。」
「あー、そういえばお兄ちゃん昔よくイタリア行ってたもんね。私も一度お兄ちゃんに呼ばれて、ドルチェの偵察に行ったし。」
「デザートのことは女性の方がわかるからね」
昇さんと華子ちゃんの言葉に、なるほど流石だなと思った。
ほぼ歳が変わらないのに、自分の地味な仕事と違ってなんだかカッコイイ。
「そういえば華子ちゃんは、今後何をやる予定なの?昇さんと同じように、飲食店とか?」
「ううん。私はファッションデザイナーになりたいんだ。だから海外でデザインの勉強をしてたの。目標はアメリカのナンバーワンファッション誌、ETERNALの専属になることなんだ!」
「わぁ……素敵……!応援してるね」
「ありがとう!今年半年間は、お父さんの親友のファッション業界の広告会社で経験を積ませてもらうことになってるの。コネだからって甘えたくないから、誰よりも自分に鞭打つつもり。」
華子ちゃんは本当にしっかりしている。そう思った。
夢に向かってブレることなく真っ直ぐと進んでいる。
「半年後は……どこに行くんです?」
村田さんが、無表情でワインを見つめたままそう聞いた。
彼はなぜか、華子ちゃんには公でもプライベートでも敬語なのだと知った。
昇さんに対しては公のときのみ敬語なのに。
やはり彼女は彼にとって、ボスのお嬢様であり、上下関係的なものを自分の中にしっかり確立しているのかもしれない。
そのわりに、呼び方はちゃん付けなのが不思議なわけだが。
「半年後は、一旦ニューヨークに戻って個人で仕事をしながらETERNALに欲しい人材だと思ってもらうために自分を売り込んでみる。認めてもらえるまで何度も。」
その前向きな笑みが、とても輝いて見えた。
昇さんは、「相変わらずポジティブだなー」と言って笑った。
村田さんは先程から表情変わらずワインを飲み続けている。
なにを考えているのか相変わらず掴めないが、果たして今日のサプライズを楽しんでくれているんだろうか?
「あ!萌さん!そろそろアレ持ってきていいですか?」
「あぁ!そうだね!」
私たちはそそくさとキッチンで準備をし、ソレを持ってくると、当然村田さんは目を丸くした。
「お誕生日おめでとう!村田さん!さぁ、火を消して!」
ソレは、美しく二層の色合いになっているチェリーのパンナコッタに、フルーツの飾りと蝋燭を立てたものだった。
実は村田さんはパンナコッタが好きだという。
だから華子ちゃんが手作りして持ってきたものなのだ。
「ちょっ…と……いい歳して蝋燭を消すなんてそんな……」
「いいから!去年は日本に来れなくて祝えなかったから、今年こそはなの!」
私はもう気がついていた。
華子ちゃんは、村田さんのことが好きなのだと。それは多分、恋愛感情だろう。
それでもフィアンセがいることに、やはり残酷さを感じてしまい、胸が傷んだ。