食材をいろいろと購入し、帰宅すると、すでに昇さんはチーズ鍋を用意し、ワインやシャンパン、ツマミ類まで準備してくれていた。
「お、おい…昇……俺は聞いてないぞ……」
「別にいいじゃないか。特に用事ないって言ってたし」
「だから今朝聞いてきたのか……」
村田さんはまだ戸惑っていたが、チコが駆け寄ると、諦めたように肩の力を抜き、表情が緩んだ。
村田さんにチコのことは任せ、野菜や肉などを茹でたりしていると、ものの15分後くらいに家のインターホンが鳴った。
私は画面でその姿を確認してから扉を解除する。
すぐに扉のチャイムが鳴った。
「あ!すみません村田さん、出てもらってもいいでしょうか?私たち今手が離せなくて…」
「あぁ、もちろんです。郵便か何かですか?」
玄関の方へ歩いていく村田さんにチコが後ろからついて行くのを私と昇さんはついニヤニヤしながら見届ける。
何やら喋り声が玄関から聞こえたかと思えば、その人物は村田さんと共に現れた。
「萌ちゃん!お兄ちゃん!お邪魔しまーす!わぁ〜素敵なおうちー!チコちゃんかっわいー!いいなぁいいなぁ」
「華子ちゃんいらっしゃい!」
「はぁ……ちょっと待ってくれ。これも聞いてない」
「村田さん、別に私がいたって困ることないでしょー」
実は今夜、元々華子ちゃんが来ることになってはいたが、なぜか華子ちゃんは、自分が来ることを村田さんには内緒にしていてくれと言っていた。
多分サプライズがしたかったんだろうと思う。
「はい!村田さん!」
「……は?」
素敵な花と共にプレゼントを渡す華子ちゃん。
「ハッピーバースデー!」
「!!!」
村田さんは当然、目が丸くなっている。
固まってしまった村田さんに、私たちも近寄った。
「ほら、華子ちゃんがせっかく選んだものなんだから、ちゃんと受け取ってください」
「ふふっ開けていいよ!」
村田さんは、おそるおそるゆっくりとそれを受け取り、言われた通り、その場で箱を開けた。
「……ん?これは…電子タバコのケース?」
「うん。実用的なものがいいかなって。」
村田さんが電子タバコを吸っている場面は見たことがないが、さすが付き合いの長い華子ちゃんはよく知っているようで、しかも彼の好きなカラーや柄も熟知しているようだった。
とてもオシャレなケースで、素敵なブランドのキーホルダーもついている。
「あ…りがとう……。ていうか……誕生日なのか……今日は俺の……」
やはり忘れていたらしいが、とりあえずテーブルセッティングも終わったことだし、改めて全員で席について乾杯した。