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第67話

次の日から、私の送迎はどこに行くにも必ず村田さんがしてくれることになった。

なんだか本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、また同じように怖い思いをするのも、昇さんに心配や迷惑をかけるのも嫌なので、ちょっとした買い出しでさえ必ず村田さんに店内までついてきてもらうことになった。

少々気まずいし、誰かに見られたらどう説明すれば良いか分からない。

なので私は、極力帽子やマスク等で顔を隠していた。

村田さんも完全にボディーガードみたいな佇まいなので、傍から見たら、私たちは逆に目立っているかもしれない。


それに彼はやはりプロフェッショナルと言うべきか、どこに行くだの何を買うだの何時になるだのと、何を言っても返事はYESのみで、全く何も詳細を聞いてこない。深追いしてこない。

まさに、主人の言われたことのみをただこなす、プロの執事という感じなのだが、私にとってはなんだか寂しくて、もっと仲良くしたいし話し相手になってほしいと思っていた。

だから今日、私は思いきって提案してみた。


「村田さん、よかったら今日一緒に夕食でもどうですか?」


「えっ?私がですか?!」


当然、かなり驚いた様子で、安易にYESとは言わない。


「明日は祝日だから、私も昇さんも村田さんも、明日はお休みですよね。それに、今夜はチーズフォンデュパーティをやることになってるんです!」


「は、はぁ…なるほど……」


歯切れが悪いが、ただ遠慮しているだけだろう。

昇さんも、彼はただノリが悪いだけで、いざそういった場面になれば、結構楽しい人だと言っていた。


「これから買い物に行くので、好きな物を一緒に選びましょう!」


「……でもそれ昇は知ってるんですか?」


「もちろんです!」


今、村田さんは私を職場に迎えに来たところだ。

車の中で、いつも行く無添加のちょっと高級目なスーパーに寄ってもらうさなか、村田さんはそちらにハンドルを切りながら、最終的には「分かりました」と、私の圧に押されたように了承した。


「そういえば村田さんは、嫌いな食べ物ありますか?」


「いえ、ないですね。基本的にはなんでも食べます」


「へえ!それは凄い!子供の頃からですか?」


「はい。まぁ子供の頃なんてとくに、うちは貧乏で食べるものを選別してる余裕すらありませんでしたから。」


「えっ……そ、そうなんですか?」


「あーすみません。余計なことを。母子家庭だったもので。」


サラッといつもの無表情でそう言う村田さんだが、私は驚愕した。

てっきり、昇さんと同じ私立の高校だったというから、おぼっちゃまなのだと思い込んでいた。

ということは……どうやって昇さんが行くほどの私立に通えたのだろう?

聞いた話だと、昇さんは小中高と名門のお金持ち学校に通っていたらしい。

もしかして村田さんは、特待生とかで学費免除?でもそんな制度、あんな名門校にあるだろうか??

ま……そんなこと私が考える意味は無いか……。



「チーズフォンデュって、私やった事なくて。よく映画とかドラマとかで見て憧れてたんですが、材料は何がいいですかね?」


「……そういえばチーズフォンデュって…1度店で食べたことがありますね。」


「ホントですか?!」


「えぇ。まぁチーズに合えば基本的にはなんでもいいんですよ。野菜やベーコン、ウインナー、肉はなんでも良いと思うし。」


「なるほど」と言いながら、私たちは相談し合いながらあらゆる材料をカゴに入れていく。


「ちなみにその、チーズフォンデュのレストランというのはどこですか?」


「あぁそれは、新宿にある加賀見系列の新店レセプションで行かされたんですよ。」


「わぁ、それは楽しそう!昇さんとですか?」


「いえ。華子ちゃんと。」


「え!」

と、つい声を出すと、村田さんは明らかに、しまったというような顔をし、目を逸らした。


「いや…あの……レセプション関連には昔よく、華子さんに誘われることが多く……」


「ほぉ……」


いや、私が驚いたのは、初め、「華子ちゃん」と呼んだことだ。

ということはつまり、そこそこ仲が良いということになる。

それに今日は実は、そもそもそのことも関係していた。



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