「本当にご存知ないですか?」
「ありません……聞いたことないです。なんなんですか、それは?しかも私の父が……作ったって……」
「あなたのご家系は、かつて100年の歴史を持つ医療の名門でしょう」
「っ……」
それは……知っている。
私の家族がバラバラになる前は、大きな病院を経営していた。時代と共に形を変えつつも100年近くの歴史があるということも。
しかしある日突然、その病院で火災が発生し、近くにあった私たちの住処も焼かれた。
あの一件で私たちは生き別れとなったのだ。
「も…もしかして……あの火事は……」
ずっと、心のどこかで引っかかっていたことがある。
あれはどう考えても誰かの故意による事件で、何か重大な理由があって引き起こされたものだろうと。
「その薬とやらを……入手するために…?」
「あれ?それもご存知なかったんですか?」
その言葉に目を見開いた。
嫌な汗が吹き出てくる。
「参ったなぁ……じゃああなたがトレフルのレシピを知らないのも本当ですか」
「しっ、知らない!私はなんにも知らない!誰も何も教えてくれなかった!」
私の中から、堰を切ったように感情が溢れてきた。
確かにあの頃は子供だったかもしれない。けれど、ここ15年あまり、知りたいと思う気持ちと知りたくないと思う気持ちの狭間を葛藤しつつ、私なりにせめて父と姉の行方だけでも捜そうとしてきた。
けれど母でさえ、何も教えてくれなかった。
何かを隠しているだろう事はわかっていた。しかし怖くて深く踏み込めなかったのは私の意思だ。
「うーん……どうやら…嘘はついてないようですね」
涙をこらえるように目に力を入れていたら、田代さんはようやくそう判断したようだ。
「しかしおかしいですね。」
「なっ、なにがですか!何聞かれてもホントに私は何もっ」
「だって……」
その後の言葉に、私は耳を疑った。
嫌な汗が背中を伝う。
「トレフルは、本條萌さん…あなたしか知らない情報があるらしいですよ」
全くもって意味がわからないはずなのに、
私の中でどこか、奇妙な感覚を覚えた。
なにか大事なことを忘れているような……
思い出したくないことに必死に蓋をして封印しているような……
「う……っ…」
ズキッと頭が痛んだ。
「やっぱり何か知ってそうですね」
「っ、だから知らないですってっ…」
「ならば仕方ないですね。別の手段を考えますか。あなたのお母様に伺っても上手く巻かれてしまいましたし。使い方を工夫しないと、ただの無能な親子ですね」
「は?!」
「聞き出せるまではあなたを監禁します」
「!!」
どうやら冗談ではなさそうだ。
本当にその気らしく、どこかに電話をかけ始めた。
「ちょっと田代さんあなた!そもそも誰なんですか?!」
なぜこの人が私の家庭のことまで知っていて、私の知らないことまで知っているのか。
全て意味がわからない。
私の頭の中派完全にパニクっていた。
急いでスマホを取り出そうと、傍に置いてあったバッグの中を漁る。
「なっ、ないっ?!」
視線を上げると、私のスマホで電話している田代さんが、不敵な笑みを浮かべていた。