なぜだろう。
いつもと変わらない時間、いつものベッド、いつもの枕、隣にいるのはいつもの昇さんなのに、なんだか今夜は全然違うところにいるみたいに感じる。
ベッドに入ってから、昇さんは何も言わない。
多分、私から話し出すのを待っているのだろう。
これ以上沈黙が続いたら、確実にどんどん気まずくなるのは目に見えている。
「……昇さん。じゃあ……話しますね。」
小さく息を吸って、真っ暗な天井を見つめた。
その黒の中に、まるで昨日のことのように、忘れられない過去が見える気がした。
暗闇の中で、燃え盛る炎だけが私の瞳に煌々と映っていて、それは今も消えていない。
「私、実は……3つ上の姉がいるんです。それから本当は……父もどこかで生きているはずなんです」
昇さんには、父は病で亡くなったということにしていた。姉のことは言っていなかった。
「だから私、二人を捜してるんです。ずっと……でも見つからない。母も知らないって言うんです。」
昔は、母が隠しているのだとばかり思っていた。だけど最近気がついた。
きっと母も知らないのだと……。
ということは、嫌でも一つの可能性を考えてしまう。
「い…っ、生きてるのかも……わからない。もしかしたら、もうとっくに……。だけど捜したいんです。」
最後に見た父と姉がどんなだったかも覚えていない。
どこでどんなふうに生き別れになったのかも覚えていない。
だから私の記憶の中の2人は、楽しかった日常の想い出で止まっている。
ショックな出来事すぎて、私の記憶が誤作動を起こしているのかもしれないし、正直よくわからない。
あまり覚えていないのだ。
「だから……協力してくれませんか、昇さん」
「………。」
「……昇さん?」
「………。」
え……?え?
えぇえ?!
もしかして、寝ている?!
よく考えてみたら、ベッドに入ってから昇さんの声を一度も聞いていない。
耳をすませれば、小さな寝息が聞こえた。
「……すいません。話し出すのが遅すぎましたね……」
なんだか笑いが込み上げてきてしまった。
勇気を出して喋ったけれど、彼の耳には何も入っていなかったということだ。
そして私は何故か、その事実にホッとしている自分に気がついた。
「あぁ……そっか……」
私はきっと、これを話すことによって少しでも昇さんとの関係性や空気が乱れるのが嫌だったんだ。
だからむしろ、良かったかもしれない。
「おやすみなさい、昇さん。今日も楽しかったです。」
私はゆっくりと目を閉じた。
隣で昇さんの存在を感じながら眠ることに、すっかり慣れてしまった。
前は緊張して、なかなか寝付けなかったのに。
すぐに眠りに引きずり込まれた私の横で、目を見開いている昇さんには気が付かなかった。