ものの10分もしないうちに、村田さんは迎えに来た。
店内まで来てくれと昇さんが言ったから、村田さんは店内の個室まで迎えに来てくれたのだが……
「なっ……!!なぜこの人が?!」
「やっぱり村田も聞いてなかったんだな。僕もさっき知ったばかりなんだよ。サプライズとか言って突然現れたんだ。」
村田さんはなぜか、驚いているというよりもどこか気まずそうに戸惑っているような態度をしている。
「ご覧の通り酔っ払っちゃっててさ。だから悪いんだけど村田、僕らを送ったあとに、華子のことも自宅に送り届けてくれないか?」
「…っ……」
村田さんは明らかに嫌そうな顔をしながら、ため息一つついて華子ちゃんを抱き上げた。
華子ちゃんとはもちろん顔見知りだろうが、仲が悪いのだろうか?
村田さんの態度を見るに、明らかにそんなふうに感じる。
「ん……あ、れ……この匂い……んー……」
抱き上げられた華子ちゃんはなんと、村田さんの首にギュッとまとわりついた。
村田さんは困惑した表情で車に運び込んでいる。
なかなか離れない華子ちゃんを、私たちでどうにか村田さんから引き剥がして車に乗せた。
私たちの自宅前へ到着してから、昇さんは車を降りながら村田さんに言った。
「ありがとう、助かるよ村田。華子を宜しく。明日はいつもの時間で。」
「……。そもそも、華子さんのドライバーを呼べばいいんじゃないのか」
「連絡先知らないんだ。それに華子はいつも、酷く村田に会いたがっていたし」
「っ……」
何か言いたげな村田さんだったが、昇さんと私が宜しくと言うように苦笑いすると、無表情で何も言わずに華子ちゃんを乗せたまま行ってしまった。
「……?あのー、村田さんは華子ちゃんのこと苦手なんですかね?でも華子ちゃんは村田さんに会いたがってるっていうのは……」
「あぁ、僕もよく分からないんですが、なんか昔からあぁなんですよね村田は。華子に対しては態度がよそよそしいというか。まぁ村田は元々女性が不得意なタイプなので。多分僕以上に。」
「えっ、そうなんですか?」
「萌さんは気にしないでください。それより、妹が迷惑かけてすみませんでした。」
「迷惑なわけありません!とっても楽しかったですし、なんだか姉妹になれたような気分で……」
大人になってからの姉妹って、こんな感じなんだろうか?
私の姉は、今どこで何をしているのだろうか……?
「あ、そういえば、なにかお話があるんでしたよね?すみません、妹が遮ってしまって」
「あっ……はい……」
そうだ……言わなきゃ……。
元々このためにこの人と結婚までしたんじゃないか。
「……。」
「……?萌さん……?」
言わなきゃなのに……
どうして言葉に詰まる?感情に詰まる?
「あー、えっと……やっぱりまた今度言います」
「え?なにか大事な話だったんじゃ」
出迎えてくれたチコを抱き上げながら、昇さんは不思議そうに私の表情を伺ってきた。
なんと誤魔化そうか口を開きかける。
「萌さん、やっぱり言いたいことはその日に言うべきです。だから聞きますよ」
「あ……はい……」
確かにその通りだ。
多分ここで逃げたら、また私は言えなくなるだろう。
そもそも私は何を恐れて……
「あの……じゃあ……」
私は、いつもの寝る前の告白タイムで言うことを約束した。