華子ちゃんも席につき、また新たに3人で乾杯をする。
簡単な自己紹介をお互いにし、彼女の親しみやすい性格のおかげですぐに打ち解けられた。
大学卒業後、ニューヨークに3年間も留学していたらしい。
1度だけ帰国したことがあるらしいから、昇さんと会うのは約1年半ぶりということだ。
「すごい。私、海外なんて社内旅行でグアムに行ったくらいだから、憧れるなぁ……」
「え、ちょっと兄さん!連れてってあげなよ何してるの?!」
華子ちゃんは当然、私たちが出会ってすぐに結婚したなんて知らないから、私を旅行すら連れて行ってあげてないのかと昇さんのことを罵りはじめた。
「あー、えーと……ちょっと今までタイミングが悪くて。でも今度行きましょうね、萌さん。新婚旅行もまだだし。どこに行きたいですか?」
「あ……行きたいところ……」
実はずっと昔から行きたいところが、一つだけある。
何度も想像しては、脚本に書いたこともあった。
「ニュージーランドです」
「へぇ!ニュージーランド!私も行きたいところだ!自然と動物がいっぱいって聞いてる!」
「えぇ。でも私はそこで……星空を見たいんです」
「星空……ですか?」
昇さんの言葉に頷きながら、何度も想像してきた世界一美しいと言われている星を思い浮かべた。
「テカポ湖っていって、とっても素晴らしい星空があるんですよ。すっごく細かい六等星まで全部見えて、手が届くほど近くに星々が輝いてるんです……それを、昔からどうしても、死ぬまでに一度は見たくって……」
世界の絶景と言われているものはたくさんある。オーロラとか滝とか世界遺産とか。
だけど私はどうしても、その星空が見たかった。
東京にいると、普段からして美しい星なんてほとんど見れてきていない。流れ星すら見たことがない。
「あ……思い出した。昔そこが登場するドラマを見たことがあります!」
「っ!もしかして、星の龍ですか?」
「それです!確か映画化にもなった」
「あれ実は……私が脚本したんです。」
「あぁどーりで!素晴らしい作品だと思いました。僕、ドラマにもハマって映画も観ましたよ」
まさか昇さんがあれを観てくれていたとは思わなかった。
もちろんいつものごとく、あの作品の名声も上司に盗られてしまったが、別にそれでも良かった。
我なりに、かなり想い入れを持って描いた、過去最高傑作だと思ったから。
「あれを超えるものは、未だに創れてないんです。」
「わー素敵……!今日帰ったら私もそれ絶対観る!萌さん詳細教えて!あっ、連絡先交換からお願い♪」
「うん、是非是非。今度都合が合えば、うちにも遊びに来て。」
「ほんとー?!わーい!ふふ…なんだかお姉ちゃんができたみたいで嬉しい。」
華子ちゃんの言葉に、嬉しさとともになんとなく切なさを感じた。
未だそばに私の姉がいたら、こんなふうだったのかな……。こんなふうに、結婚を喜んでくれたり、相手に会って皆でお酒を飲んで喋って遊んで……
こんな未来があっただろうか……
「おい華子、酔いすぎじゃないか……?」
「華子ちゃん大丈夫?はい、水飲んでっ」
しばらくしてからすぐ、華子ちゃんは明らかに顔を赤くし呂律が回らなくなっていることに気がついた。
「ふひひ〜ぃ……お姉ちゃーん……」
「はっ、華子ちゃ」
デレデレと抱きつかれてしまった。
「はぁ……相変わらずなんだな。華子は酔うとすぐそんなふうになるんです。すみません本当に。」
「あぁ、いいえ全然!甘えんぼになるなんて可愛いじゃないですか」
「……。とりあえず村田を呼びます。」
昇さんが電話をかけはじめると、私に抱きついたままの華子ちゃんがピクリと動いた。
「ん……会いたいー……」
「え?……華子ちゃん誰に会いたいの?彼氏?」
「…んで……な…んで……」
もしかして、向こうの国に置いてきた外国人の彼氏がいるんだろうか?