「ごめんなさい、昇さん……
母があんなに頑なになるなんて……」
「いえ……。大切な娘さんですから、慎重になるのは当然ですよ。むしろ僕の家系を知って、大喜びするような親御さんの方が少し信用に欠けますから、ある意味で安心もしましたし。」
なるほど……。
でもそんなことを言ってる場合ではない。
このままだと結婚できな……くもないが、さすがに親の反対を押し切ってまでするのは気が引ける。
「そんなに落ち込まないでください萌さん」
「だって……せっかく昇さんのお父様は認めてくださったのに……」
むしろこの逆パターンを想像していた。
が、まさかの自分側で詰まるとは想像もつかなかった。
「僕は絶対諦めませんよ。ちゃんと認めてもらえるよう努力しますから、安心してください。あ、そうだ。僕のお気に入りのカフェにでも行きましょう」
昇さんは私のことを気にかけてくれているようで、明るくそう提案してくれた。
でも……本当はどう思っているのだろうか。
「わぁ……」
昇さんがお気に入りのカフェ……というからてっきりまたとてもオシャレでお高い、アフタヌーンティーのセットなんかがある場所を想像していた。
のだが……
「東京にこんな場所があったなんて……」
「ここは京都で一番の老舗が暖簾分けしてやっている隠れ家的茶屋なんです」
風情のある畳の部屋が円状に庭園を囲っていて、その庭園にある風情のある池には鯉が泳いでいる。
あまりにも落ち着いた、まるで平安時代の貴族にでもなったかのような、なんとも言えない日本の異空間が広がっていた。
「……あら?まぁ昇さん?昇さんじゃないかい!いらっしゃい!あなた〜っ!昇さんよぉお〜っ!」
出てきた女将さんのような年配の女性。
着物を着ていてとても美しい。
「……おぉなんだ!昇!おめぇちょっと見ねぇうちに女作ったんか!」
「ちょっとあなた言い方!!」
これまた予想外な風貌の、明るい男性が出てきた。なんとなくこういう所の人は、気難しそうな無口で厳格なタイプを想像していたから。
「こんにちは、ご無沙汰してますお二人とも。今日は僕の婚約者を…」
「「えぇっ?!?!」」
私は挨拶をしつつも、昇さんがまだ私のことを変わらず婚約者と言ってくれることに胸がジンジンと不思議な感覚になっていた。