そうしてついに、週末のその日を迎えた。
「昇さん私……この服装で大丈夫ですかね……」
何を着ていけば良いか分からなすぎて、今週は何度も鏡の前で服を合わせていた。
こういう場面は何を着るべきかとネットで散々調べたが、とにかく「清楚」というキーワードばかりが目につき、それを気にしていたらなんだかだんだん地味で華やかさのない女に見えてきてしまった。
仕事柄、服装は問われないため普段から素朴な格好をしてきた。
だから自分のファッションセンスにあまり自信が無い。
メイクやヘアスタイルに関しては、一時期研究したことがあったから問題ないのだが…。
「素敵なワンピースじゃないですか。僕と買いに行ったものではないですね」
「はい、これは……昔母がプレゼントしてくれたもので……。でもやはり地味ですよね?」
ブランド物を身につけていくのはNGなどとネットで読んだため、それを避けたのだが、よくよく考えてみたら相手が相手だ。
逆に昇さんに買ってもらったブランド物一色でコーディネートしていった方が良いような気がしてきてしまった。
「や、やっぱり着替えてきます」
「え、なぜです?とてもお似合いですよ。是非それで行きましょう」
小綺麗なスーツに身を包んだ昇さんは、優しく微笑んでからそう言うと、私の前髪に触れた。
「っ、あ……髪は下ろした方が上品に見えますか?」
「どちらでも良いですが、アップにしている萌さんも新鮮で可愛いですよ。」
可愛いなんて滅多に言われない単語で、私の心臓がいちいち音を立てる。
最近気づいたんだけど、私はこの人といるときはまるでウブな生娘みたいになる。
シャンとしようと心掛けてはいるものの、こんなに整った容姿の色気のある男性と過ごしていて平然としている女性なんて居ないんじゃないかと思う。
いくら恋愛感情を持っていないにしても。
到着した加賀見邸は、本当に大きくて、そもそも外からだと見えないほどの外壁に囲まれていた。
まさに御屋敷といった言葉が相応しい。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」
「きっ、緊張するに決まってるじゃないですか!」
屋敷の中はもちろん高級感があるのだが、家政婦のような方々に1つの部屋を案内され、そこで待つことになった。
飲み物のオーダーを聞かれ、なんでもいいと応えるととてつもなく風味豊かで美味しいレモンティーが出てきた。
ていうか……ここはカフェなの?
高級そうなお菓子まで出てきて、まるでホテルのラウンジにアフタヌーンティーでもしに来た気分だ。
チラリと昇さんを見ると、涼しい顔をしてアイスティーを飲んでいる。
私はこっそりと部屋を見回した。
完全に客室用といった感じで、なんとなく想像していたなにかの賞のトロフィーだとか賞状だとか、すごい人たちが写っている写真立てだとかは全くない。
ただ話をするだけの、余計な思念を抱かせない洗練された部屋という感じ。
それが逆にとてつもない緊張感を仰いだ。