「っは!」
「昇さん?!大丈夫ですかっ」
食事を持ってくると、昇さんが魘されていた。
声をかけると、昇さんはパッと目を開けて荒い呼吸を繰り返した。
「……っ、萌さん……」
「あ……熱は少し下がったみたいですね…」
額の汗を、冷たく冷やしたタオルで拭いた。
昇さんが魘されるまで体調を崩すなんて心配だ。仕事に家庭のことにって、きっと負担が大きいのだと思って申し訳なくなった。
「すみません……夢を見ていました。熱が出るといつもそうなんです。気にしないでください」
「夢……?どんな夢ですか?」
「……死のうとする夢です」
「えっ?!」
「でも……助けてもらうんです。」
「よかった……誰にですか?」
「萌さんです」
「えぇ?ふふ、面白い冗談ですね。あ、まずは着替えられますか?」
一瞬びっくりしたけど、昇さんも冗談言うことあるんだなぁなんて思いながら、洗濯済の昇さんの部屋着を手に取った。
「……着替えられないです」
「え」
「手伝ってもらえますか?」
少し甘えたような表情をする昇さんに顔が熱くなるのがわかった。
「わ、わかりました。じゃあ…失礼します」
わざと平静を装いながら、恐る恐る昇さんのシャツのボタンに手をかける。
えぇーーーっ!!なんでそんな顔してこんなことをさせるの!?
と、私の無表情とは裏腹に、内心はかなりパニックになっていた。
ひとつ、ふたつ……と、ボタンを外していけば、昇さんの肌が顕になる。
「あ……汗……拭きますね……」
薄らと筋が浮き出ている美しい腹筋と胸板……
なんとなく目を逸らしながらゆっくりと濡れタオルを当てると、ピクっと少しだけ体が反応した。
固い筋肉……それに、肌の滑らかさが布越しでもわかる。
男の人の体を触ったのなんて久しぶりすぎて、うぶな女子みたいにドキドキしてしまう。
もしかしたら顔まで赤くなってるかもしれない。
昇さんがどんな表情をしているのか気になるけれど、目を合わせられない。
「お粥と煮物……食べられますか?」
どうにか着替えさせてから、ホッと溜息をつきながら聞くと、昇さんは「もちろん!」と嬉しそうな顔をした。
「わぁ……美味しそうですね。食べさせてくれますか?」
「え……」
「僕は今、病人なので」
「いいですけど……」
今日の昇さんは本当にとことん甘えようとする。
こういう一面があるなんて意外だけど、ある意味で少し安心もしていた。
完全無欠で弱みを見せないだけの人のほうが逆に、どう接していいか分からないから。