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第38話

「っは!」


「昇さん?!大丈夫ですかっ」


食事を持ってくると、昇さんが魘されていた。

声をかけると、昇さんはパッと目を開けて荒い呼吸を繰り返した。


「……っ、萌さん……」


「あ……熱は少し下がったみたいですね…」


額の汗を、冷たく冷やしたタオルで拭いた。

昇さんが魘されるまで体調を崩すなんて心配だ。仕事に家庭のことにって、きっと負担が大きいのだと思って申し訳なくなった。


「すみません……夢を見ていました。熱が出るといつもそうなんです。気にしないでください」


「夢……?どんな夢ですか?」


「……死のうとする夢です」


「えっ?!」


「でも……助けてもらうんです。」


「よかった……誰にですか?」


「萌さんです」


「えぇ?ふふ、面白い冗談ですね。あ、まずは着替えられますか?」


一瞬びっくりしたけど、昇さんも冗談言うことあるんだなぁなんて思いながら、洗濯済の昇さんの部屋着を手に取った。


「……着替えられないです」


「え」


「手伝ってもらえますか?」


少し甘えたような表情をする昇さんに顔が熱くなるのがわかった。


「わ、わかりました。じゃあ…失礼します」


わざと平静を装いながら、恐る恐る昇さんのシャツのボタンに手をかける。


えぇーーーっ!!なんでそんな顔してこんなことをさせるの!?

と、私の無表情とは裏腹に、内心はかなりパニックになっていた。


ひとつ、ふたつ……と、ボタンを外していけば、昇さんの肌が顕になる。


「あ……汗……拭きますね……」


薄らと筋が浮き出ている美しい腹筋と胸板……

なんとなく目を逸らしながらゆっくりと濡れタオルを当てると、ピクっと少しだけ体が反応した。

固い筋肉……それに、肌の滑らかさが布越しでもわかる。

男の人の体を触ったのなんて久しぶりすぎて、うぶな女子みたいにドキドキしてしまう。

もしかしたら顔まで赤くなってるかもしれない。

昇さんがどんな表情をしているのか気になるけれど、目を合わせられない。


「お粥と煮物……食べられますか?」


どうにか着替えさせてから、ホッと溜息をつきながら聞くと、昇さんは「もちろん!」と嬉しそうな顔をした。


「わぁ……美味しそうですね。食べさせてくれますか?」


「え……」


「僕は今、病人なので」


「いいですけど……」


今日の昇さんは本当にとことん甘えようとする。

こういう一面があるなんて意外だけど、ある意味で少し安心もしていた。

完全無欠で弱みを見せないだけの人のほうが逆に、どう接していいか分からないから。


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