「あの……先程の方は一体どなただったのですか?」
車の中で、私は村田さんに尋ねた。
フラペチーノの味は、ほんのり薔薇の香りがしたが、正直味はあまりよく分からない。
「いわゆるその……いいなずけ…だった人です。昇の。」
「?!え……」
思わずフラペチーノを落としそうになってしまった。
「でも萌さんは気になさらないでください」
「きっ、気にならないわけないじゃないですか!それ大丈夫なんですか?!」
「大丈夫です。昇の方はきちんとそれについて断り…つまりこの件については清算されたことなんです。ただあの娘が一方的なだけで。」
冷静沈着な態度で前を見据え、運転しながらサラリとそう答える村田さん。
財閥同士の事情はよく知らないし、私が首を突っ込んではいけないことなのは承知の上だ。
だからなんと返そうか言葉を探していた。
「萌さんに何かあることはないので、忘れてください。」
忘れてくださいって……簡単に言うけど、無理に決まってるのに。
でも私みたいな部外者がこれ以上何も言わない方がいいのかもしれないな。
「そんなことより、とにかく目を離してしまいすみませんでした。言い訳ではないんですが、カフェのスタッフたちに足止めを食らってしまってまして……」
「あぁ…それって女の子たちですか?村田さんは尋常じゃないくらいモテそうですもんね」
図星なようで、否定も肯定もせずに複雑そうな顔をしたのがミラーから見えた。
確かに今日の施設には女性スタッフが非常に多かったし、お客さん自体も女性が多かった。
村田さんと一緒に歩いていると、誰もがチラチラと見てくるため、やはり村田さんほどの容姿とオーラの人は目立つのだ。
「昇さんもとてもモテそうですよね。お二人が並んでいると、異次元みたいに凄いですよ?」
きっと莉奈ちゃんも、初めは彼の見た目に惹かれたんじゃないだろうか?
なんだかんだ言って、見た目って重要だ。
「……。萌さんは、昇の外見が好みですか?」
「えっ」
あれ……私のタイプ……
そういえば考えたこと無かったな……
「うーん、私…見た目の好みって多分ほとんどないんですよね」
「そうなんですか?」
「はい。でも……昇さんの容姿は好きですよ。むしろ、嫌いとか言う女性絶対いないと思いますけど」
「でも本人は昔から、自分に全く自信のない奴ですよ。」
「えっ、あんなに完璧な人が?!」
ついそう口に出してしまい、途端に恥ずかしくなって手を当てたが、ミラー越しに見える村田さんは薄ら笑っていた。
「……あ、そういえば村田さんと昇さんは、古い仲なんですか?昇さんがそんなような事を言っていたので」
「そうですねー、高校時代からですね。別に当時は仲良いつもりなんてなかったですけど」
「そんなに昔から!すごい」
高校時代の友人だったなら、どういう経緯で今、昇さんの運転手をしているのだろう?