フラワーパークの方に来て、私たちは先程から楽しく遊んでいる。
このお嬢様は、黒宮莉奈というらしい。
そして世話役の男性は前野真一。
トイプードルのティアラちゃんは5歳。
莉奈ちゃんも真一さんも、私より年齢が下に見えるが、初対面で年齢を聞くのは失礼だと思って聞いていないので正直なところわからない。
2人とも明らかに一般人ではないオーラなので、見た目年齢は当てにならない。
莉奈ちゃんに真ちゃんと呼ばれているこの男性だって、美形すぎて女性にも見えるくらいだし、一見すると大学生くらいにも見えてしまうかもしれないし、莉奈ちゃんのほうも服装のせいか下手すると高校生に見えてしまう気もする。
が、まぁそんなことはどうだって良くて、とにかく人懐っこくて明るい性格の彼女とはすぐに打ち解けてしまった。
というか、この子は周りを自分の世界に巻き込むのが上手い。こういう子を世渡り上手というのかもしれない。
私とは正反対だ。
思ったことを素直に口にするところも、どこか憎めないのは誰もがそうかもしれないと思うほど、なんだか莉奈ちゃんには独特の魅力があった。
きっとこの真一さんも、ただの執事というよりも、この子自身に惹かれているのではないだろうか。
気になるのは先程からあまり仲良くなれていなそうなチコとティアラだ。
この子たちも飼い主に似たのか正反対に見える。
無邪気で構ってちゃんなティアラがずっとチコを追いかけ回している感じで、元々おとなしめなチコはだいぶウザったそうにしている。
たまに他の犬たちも混ざるが、チコはそもそもティアラでなくとも馴染めていないようにも見える。
なんだか私に似ているなと思ってしまった。
「チコちゃんて、なんだか人見知りみたいね!それに変わった毛色でおもしろーい!でも可愛いね!」
莉奈ちゃんの大きな瞳と長い睫毛が、チコに向けてぱちぱちと瞬かれている。
「うん。実は、つい一週間前に保健所から引き取ってきた子なの。身寄りがなくて、殺されてしまう寸前だったんだ。」
「えっ!?」
大きな目がさらに大きく見開かれる。
そばで聞いていた真一さんも、驚いている様子で口を開いた。
「それは……とても良いことをしましたね!萌さんにとってチコちゃんは命の恩人というわけですね!」
「萌ちゃん優しいんだね!莉奈が子供の頃飼っていた犬も、捨て犬だったんだよ。」
「えっ、そうなの?」
「うん。その子が死んじゃって、立ち直れなかった時に、パパが特別なブリーダーから手に入れてくれたのがティアラ。」
予想もしていなかった話に言葉が詰まる。
てっきりこういったお嬢様は、捨て犬や保健所の動物なんて毛嫌いしているような偏見があった。
飼うなら血統書付きの高級犬猫しか認めなそうな。
「それでもたまに思い出す…。あの子の代わりはいないって。もちろんティアラの代わりもいない。だから皆が特別なの。」
初めて切なげに微笑むその表情とその言葉にハッと胸が打たれた。
「特別じゃない子なんて、この世にいないよ。人も動物も。」
真一さんは、そんな莉奈ちゃんを優しく見つめてから「何か飲み物を買って参ります」と言って立ち上がった。
「真ちゃん!莉奈はアレね!薔薇フラペチーノ!」
途端にコロッといつもの表情に戻して明るく言う莉奈ちゃん。
「えっ、薔薇?」
「そっか、萌ちゃんはここ初めてだから知らないか!薔薇フラペチーノは期間限定で、今の時期しか飲めない名物なんだよ!ね!真ちゃん!」
「えぇ、もちろん萌さんの分も買って参りますので待っていてください!あっ、僕が離れている間、危険な遊びはやめてくださいよ!」
真一さんは早足で歩きながらも、こちらを何度か振り返ったりした。
「もう、ほんっと心配性なんだからぁ〜真ちゃんてばぁ〜」
莉奈さんはブーブーと口を尖らせながら花に向けて水鉄砲を放ち始めた。
ピュンピュンと水が飛び、花を濡らしていく。
「でも本当に優しくて、莉奈ちゃんのこと大事にしてるのがものすごく伝わってくるよ」
「真ちゃんは莉奈のこと、3歳児だって言うのよ!20歳も下に見られてるの」
なるほど。この子は23歳なんだ。
私からすればまだ全然若いなぁ。
「でも真ちゃんもね、莉奈のペットなんだ♪」
え?と疑問符が浮かんだ瞬間、バッと突然手首を掴まれた。
驚いて視線を落とすと、大きな目を近づけてこれでもかという程ジーっと私の指輪を見つめている莉奈さんがいる。