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第25話

私は今、初めてのドッグランに来ている。

チコと、そして昇さん……ではなく、村田さんと。


実は今朝、昇さんが例の会にどうしても行かざるを得なくなったと言ってきた。

とても申し訳なさそうに何度も謝って。


だから私は、そんなこと本来なら当たり前のことだし別に謝る必要はないからまた今度にしようと言ったのだが、昇さんは楽しみにしていた私を裏切ると思ったのか、村田さんを自分の代わりとして楽しんでくるよう薦めてきた。

よって、今に至るわけだ。


村田さんと1対1で会話するのは初めてだ。

村田庵さん……

歳は昇さんと同い年らしく、背丈もほとんど昇さんと同じか、それ以上に見える。

そしてなんと……

昇さんに負けないくらい男前なのだ。

ただ、表情があまり変わらないうえに目付きが鋭くて冷たい印象を受けるため、一見取っ付きにくい。


そのため、なんとなく初めは緊張していたのだが、話してみると思っていたより親しみやすく、明るさも笑顔も無いが、落ち着いた雰囲気の物腰穏やかな人だと思った。

やはり第一印象じゃ人のことなんてこれっぽっちも分からないものだ。



「わぁっ……すごい……」


加賀見がオーナーだというこのドッグランは、想像の遥か上を行くところだった。

一種のテーマパークのように、犬と楽しめるカフェやレストラン、ショップなどがたくさんあり、辺りは犬が思う存分走り回ったり遊べるように自然豊かで清潔感のある広大な地が広がっている。

テーマによっていくつかのエリアに分かれているようだ。

ある意味、ペットがいなくても遊びにきたくなってしまうほどだと思っていると、やはりペット連れではない人たちが普通にお茶したり散歩をしたりしていた。


当然、自分はこんなところ始めてだ。でも、これが平均的なドッグランではないことくらいはなんとなくわかる。


「萌さん、まずは何がしたいですか?」


村田さんは、着いてすぐここの管理長に挨拶をして戻ってきた。

のだが……そう言う村田さんの背後には、こちらをチラチラと伺っている数名のスタッフたちが見える。

恐らく村田さんという人物自体もとても地位が高くてここの施設にとっては重要な人なのだろう。


「えっと……チコはいっぱい走りたそうだし、まずはそのへんを走らせても良いですか?」


「えぇ、もちろん。この地図を見てください。いくつかあるのですが、どこがいいですか?」


手渡してきたパンフレットには、詳細な地図が載っているのだが、どこもあまりにも楽しそうで目を見開いた。


「アクアパーク…フラワーパーク…フォレストパーク…サンドパーク……いっぱいあるんですね、凄い!」


どれも楽しそうで迷ってしまったので順番に回っていくことにした。


アクアパークはその名の通り、噴水や水の遊具が沢山あるとても楽しそうな美しい広場だった。

何組かの人たちが飼い犬と水遊びをしている。


「わぁ……!行こうチコちゃん!」


「あ、萌さんっ、では私はそこのカフェのテラスにおりますのでー……」


私はもしかしたらだけど、生まれて始めてここまでウキウキと無邪気な気分になったかもしれない。

だからわざわざカフェのテラス席に座ってこちらを見守ってくれている村田さんの存在を気にせず、生まれて始めてドッグランで愛犬と共に遊ぶという体験をした。


猫と違って犬はわりと水が好きなようで、濡れることが好きなようだ。

チコはだいぶ濡れているが、さぞ楽しそうに遊んでいる。たまに他の犬ともじゃれたりしていた。


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