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第17話

「萌さん、お腹すいてますか?

先に夕食にしましょうか?それかお風呂がいいですか?」


帰宅早々にそう問われ、「えっ」と声が出る。

それも嫁が言うセリフじゃ……


「あー、じゃあ…なんだか今日は汗かいたしお風呂にしようかな…」


「お風呂溜めてあるのでどうぞ。今日は蒸し暑かったですもんね。あ、夕食は萌さんリクエストのロールキャベツを仕込んであるので、お風呂から上がったら丁度食べられるように準備しちゃいますね」


確かに私は今朝のメッセージで夕食について聞かれ、あえて手間のかかるものを言ったらどうなるのかと、思いついたものを言ってみた。

ロールキャベツなんて、自分では絶対に作らない。正直作ったこともない。

まさか本当に、彼は帰宅してからそんな凄いもの料理したの……?


私は広いお風呂に浸かりながら、ボーッと考えた。


「至れり尽くせりだ……」


どう考えてもこれは……私が想像していた夫婦生活とは違う。違すぎる。


私がこの歳になっても結婚というものに前向きではなく躊躇していた理由はまさに、私のイメージから来るものだった。

周りは常に、とても大変そうに見えた。

料理や掃除、洗濯などの家事が、旦那や子供の分までしっかり徹底しなくてはならなくなる。

その上自分の仕事のこともあるわけだ。

いや、専業主婦も充分いっぱいいっぱいに見えるし愚痴なんかもそこらじゅうで聞く。

恐らく男性側も然りで、互いに大変なことは増える。

それはそれで幸せなんて言う人もいるが、私は怖かった。

融通の効かなくなる生活、自分を犠牲にする生活、誰かの人生に責任を持つ生活が。

しかもそれは、きっと死ぬまで続く。

仮に初めは楽しくて充実していたとしても、絶対に疲れきってくる自分を容易に想像できた。



風呂から上がると、テーブルの上にはヨダレが出そうになるほど美味しそうな料理が並んでいた。


なにこれ……レストラン?


「あ、良いワインを頂いたので、良かったら開けますか?明日に響かない程度に。」


「あ…はい…ありがとうございます」


朝食の時も思ったが、この人は料理が上手すぎる気がする。

私だって節約のためになるべく自炊はしてきたつもりだ。

それでもこんなに上手くは作れなそうだし、そもそも昇さんは財力的にも物理的にも食事は完全に外食かデリバリーか家政婦的な人に頼っているもんだとばかり思っていた。



「今日もお疲れ様です、乾杯」


カチンとグラスの音が鼓膜を揺する。

お疲れ様さまですと言ってくれる人も、料理を作って待っていてくれる人も初めてだ。


「うわぁ…美味しい…」


意図せず自然にその言葉が出た。

昇さんは嬉しそうに、何も言わずに目を細めた。

私は彼のこの表情に弱いようだ。

いちいちドキッとしてしまう。異性との生活に慣れていないせいだと言い聞かせる。


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