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第15話

「本條さんは……幸せ…ですか?」


ぽつりと言われたその質問に、言葉を詰まらせる。

今日いろんな人から数々の質問があった中で、その問は1度もされなかった。


「……。」


私は今、幸せなんだろうか?

幸せになるために生きているはずなのに、あまり自分の幸せについて考えてこなかった気がする。

幸せになりたいと誰もが望んでいるはずなのに、私は私の幸せを重要視してこなかったと思う。


私の頭の片隅には、いつだって子供の頃の惨い記憶があり、父と姉のことがあり、復讐の2文字があった。

家族を地にたたき落とし、引き裂いたその"何か"に復讐したら、私は幸せになれるんだろうか?


「……幸せかどうかは、正直わからない。

でも少なくとも、これからたくさん幸せになろうとは思ってるよ。」


結婚を利用して。

利用できるものは全部利用してやる。

せっかく私はまだ生きているんだから。


「……本條さん。お仕事、辞める予定ですか?」


「えっ、なんで?」


「だって……経済力のある方なんですよね?その方。……それに、子供を産む予定だってあるでしょう?」


「っ!」


子供……!すっかり盲点だった!

でも子供なんて……私たちみたいなある意味偽の夫婦には選択肢にすら含まれてない。


「えっとー…子供産む予定は無いし、仕事も辞めないよ。そこは理解のある人なの。私は仕事を続けてたいから。」


「っ、そうですか、ならよかったです。」


明石くんは少しホッとしたように表情を崩した。


「本條さんは1番尊敬している上司だし、それに……いなくなってしまうのは寂しいので……」


「えー?あはは、そんなことないでしょ〜

仮に私が居なくったって、明石くんはこれからもどんどん伸びていくよ」


「そんなことないです。だって僕は……」


明石くんがピタリと立ち止まってしまった。


「ん?どうしたの?」


俯き気味の彼の顔を覗いて目を見開いた。

なぜ突然泣きそうな顔をしているのか全くわからない。

この顔は、彼が入社したての頃にやらかして落ち込んでいた時のそれだ。

そんな顔した彼を放っておけなくて、お気に入りのランチに連れていった。

それがきっかけで懐いてくれた。

それ以来いつも私に必死についてきて、事ある毎に私に相談してくる、仔犬みたいに可愛い後輩。


「そんな顔しないでよ?私は辞めないって言ったんだよ?」


親犬がいなくなるかもしれないことを不安に思ってる、みたいな感じなんだろう。


「……っ、だからそうではなくて」


「萌さん」


「「!!!」」


その声は突然だった。


振り返ると、昇さんがこちらを優しい目で見つめていた。


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