「本條さんは……幸せ…ですか?」
ぽつりと言われたその質問に、言葉を詰まらせる。
今日いろんな人から数々の質問があった中で、その問は1度もされなかった。
「……。」
私は今、幸せなんだろうか?
幸せになるために生きているはずなのに、あまり自分の幸せについて考えてこなかった気がする。
幸せになりたいと誰もが望んでいるはずなのに、私は私の幸せを重要視してこなかったと思う。
私の頭の片隅には、いつだって子供の頃の惨い記憶があり、父と姉のことがあり、復讐の2文字があった。
家族を地にたたき落とし、引き裂いたその"何か"に復讐したら、私は幸せになれるんだろうか?
「……幸せかどうかは、正直わからない。
でも少なくとも、これからたくさん幸せになろうとは思ってるよ。」
結婚を利用して。
利用できるものは全部利用してやる。
せっかく私はまだ生きているんだから。
「……本條さん。お仕事、辞める予定ですか?」
「えっ、なんで?」
「だって……経済力のある方なんですよね?その方。……それに、子供を産む予定だってあるでしょう?」
「っ!」
子供……!すっかり盲点だった!
でも子供なんて……私たちみたいなある意味偽の夫婦には選択肢にすら含まれてない。
「えっとー…子供産む予定は無いし、仕事も辞めないよ。そこは理解のある人なの。私は仕事を続けてたいから。」
「っ、そうですか、ならよかったです。」
明石くんは少しホッとしたように表情を崩した。
「本條さんは1番尊敬している上司だし、それに……いなくなってしまうのは寂しいので……」
「えー?あはは、そんなことないでしょ〜
仮に私が居なくったって、明石くんはこれからもどんどん伸びていくよ」
「そんなことないです。だって僕は……」
明石くんがピタリと立ち止まってしまった。
「ん?どうしたの?」
俯き気味の彼の顔を覗いて目を見開いた。
なぜ突然泣きそうな顔をしているのか全くわからない。
この顔は、彼が入社したての頃にやらかして落ち込んでいた時のそれだ。
そんな顔した彼を放っておけなくて、お気に入りのランチに連れていった。
それがきっかけで懐いてくれた。
それ以来いつも私に必死についてきて、事ある毎に私に相談してくる、仔犬みたいに可愛い後輩。
「そんな顔しないでよ?私は辞めないって言ったんだよ?」
親犬がいなくなるかもしれないことを不安に思ってる、みたいな感じなんだろう。
「……っ、だからそうではなくて」
「萌さん」
「「!!!」」
その声は突然だった。
振り返ると、昇さんがこちらを優しい目で見つめていた。