「えっ?け、けけけ結婚?!いつの間にです?!」
「えぇ?!本條さん御結婚されたんですか?!」
1番仲の良い同僚の小口美咲に報告したのがそもそもの間違いだった。
彼女は前向きな内容にはとても口が軽い。
とはいえ、こんな指輪を左薬指につけていれば、広まるのは時間の問題ではあっただろうが。
「うっわぁあ〜……立派なダイヤ……すごーい」
「って本條さんコレ!RoyalHarryのじゃないですか?!数千万もするやつ!」
「マジ?!何者なのよ旦那様は?!」
「あなたついに玉の輿?!」
想像していた以上の周囲の反応に私はようやく実感が湧いてきた。
普通に突然結婚ってだけでも驚くことなのに、確かにこんな指輪を二重につけて、しかも……
「絶対そうよね!だってその服もその靴も!RUCCIでしょ!?しかも新作の!」
さすがおしゃれ番長の根岸部長……
決して目立つ服ではなく、全体的に清楚目な装いで来たはずだ。
だから、どこぞのブランド物なんてバレないと思っていたのだが……見る人が見ればそんなことまでわかるなんて……侮れない。
「あっ!そのバッグはあれですよね?!Kannelとあのモデルさんとのコラボの!すっっご!それ50万は超えるやつじゃないですかぁ!」
「えっ!そんなにするの?!……っあ!」
ついそう声に出してしまって急いで口を塞ぐ。
が、皆その反応で完全に私が玉の輿に乗った勝ち組女という認識になったようで、私は諦めた。
あながち間違ってもないし……
「まだ婚約中ってだけですよ……」
とは言ったものの……
ランチ休憩中も、たくさんの人たちに質問攻めにあった。
出会いはどこか、どんな人か、何してる人か、いつから付き合っていたのか、結婚式はやるのか……等々。
皆が疑問に思う当たり前な内容をたくさん聞かれたが、実際ほぼ全て、私にも分からないことだから答えようがない。
だから私は急いで作り話を考えてテキトーに受け答えした。
「本條さん…お疲れ様です」
仕事を終えて帰り支度を始めようとした時、後輩の明石くんに声をかけられた。
「あっ、お疲れ様!明石くんと話すの今日は初だね」
「はい。皆さん群がっていて話しかける隙なかったので……」
「そ、そうだよね。ごめん、騒がしくて……」
「良かったら一緒に帰りませんか?っあ、すいません新婚さんだから旦那さんが迎えに来られてますかね」
「ううん!歩いて帰るから、一緒に帰ろう。ていうかまだ正式に結婚してなくて、あくまで婚約中だよ?」
まさか明石くんにまで気を遣われているとは……。上司としてあまり宜しくない気がしてならない。
私は元々、プライベートは仕事に絶対に持ち込まないようにしてきた。
「あの……驚きました。本條さんに結婚前提にお付き合いしてる方がいるって知らなかったんで…」
「あぁ、そ、そうだよねぇ……ごめんね突然の事後報告みたいになっちゃって」
私だって驚いてるよ!と心の中で叫ぶ。
明石くんは驚きすぎてしまったのか衝撃が強かったのかよくわからないが、なんとも言えない表情をしている。