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第12話

「……。本当に…不思議ですね。私なんかが昇さんみたいな…いろんな意味で身分の違う人と……」


ついいろいろと自信を失ってそう呟いてしまった。


「……はい?何を言ってるんです?」


本気で意味がわからないと言った顔をされ、逆に私の方が意味がわからなくなった。


「誰がどう考えてもそうですよ?そもそも私は……酔った勢いで冗談で結婚しようと言っただけなのに…」


「……まさか今更嫌だとか言いませんよね?」


「いっ、言いませんよ!ただ……釣り合いが取れるか不安なんです。私が……あなたと。」


「そんなことは心配いりませんし、萌さんは何も変える必要がありません」


「え……何も?」


「何もです。変わらないでいてください。あなたはあなたらしくいてください。」


そんなふうに言われたのは初めてなので言葉に詰まってしまった。

普通は、自分らしくいていいなんて言われたら、ただ嬉しいだろう。


でも……私はなぜか妙な気分に包まれた。


私らしくって……どんなふう?

考えたことすらなかったのだ。



最後のデザートと紅茶が運ばれてきてから、昇さんは私に左手を出すよう言った。


「っ!!」


私の指に嵌められた美しい指輪に目を見開く。


「ずっと外さず付けていてほしいので、装飾が控えめのものの方がいいかなと思いまして……。あと萌さんはあまり派手なのも好きそうでは無いので」


先程の高級店で購入したのだろう。

噴水のライトに照らされ、これでもかと言うほどキラキラと光る薬指。

いや……充分大きいダイヤだと思うけど……と言いたくなるくらいに、それは自分にとって、ずっしり重くて大きいものだった。


「萌さん」


固まったままの私の手を、彼はそっと持ち直した。


「あなたが僕の妻でいてくれる限り、あなたに苦労はさせませんから。だから……」


そう言って、ダイヤの指輪に重ねるように、今度はシンプルな無装飾の指輪を嵌めた。


「どうかそばに、いてくださいね」


そんな言葉……まるで本当に愛し合っているフィアンセが言うプロポーズ……

それに、婚約指輪と結婚指輪……両方用意してくれたんだ……


私の胸の奥に、じんわりと温かいものが染み込んでくる感覚がした。



「あの……っ、昇さんのは?私に嵌めさせてください」


昇さんは驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに目を細め、指輪と左手を出した。


初めて彼の手に触れる。

細くて長くて、骨ばっているけれど、綺麗で温かいと思った。


「よろしくお願いします……昇さん。」


初めて自分から、ようやく覚悟を決めた言葉が出た。


「萌さん……こちらこそ。」


思いもしなかった。

いつか自分が、自分の書いた脚本の通りのことが起こるなんて。

指輪のメーカーも、シチュエーションも、雰囲気も全部。

自分が思い描いて書いた脚本……心のどこかで隠してきた、自分の理想だった。


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