その後はインテリア雑貨や家具家電などを見たりして、私たちは結構楽しんでいたと思う。
昇さんはあまり表情を変える方ではないが、その代わり言葉で表現するタイプだと知った。
それに、思っていたより微笑んでくれる。
「はぁー…なんだかたくさん買い物しちゃいましたね……」
途中からとっくに計算なんて諦めているが、ちょっと思い返しただけでもトータル300万はくだらないだろう。
あの指輪なんて入れたらもしかしたら数千万…?
「お腹空きましたね。何が食べたいですか?」
「え、あぁなんでも……」
18:00……もうこんな時間か。
なんだかこんなに時間をあっという間に感じたのって久しぶりかもしれない。
昇さんは電話をかけ始めた。
「もしもし、私です。あと15分以内に到着するので二名でお願いします」
たった数秒の電話で手配を済ませてしまったらしく、村田さんの運転でそこへ到着した。
どうせまたホテルの最上階みたいな高級レストランだろうと想像していたのだが、そこはこじんまりしたお洒落なイタリアンレストランだった。
そんなに畏まった感じはなく、デートや女子会に向いてそうなお店だ。
ここも彼がオーナーなのかと思いきや、ただの常連だと言った。
主に昼間に1人でランチに来ることがあるらしい。
「今日は夜風が気持ち良いのでテラスなんかどうですか?」
そう言われて案内されたテラスには小さな噴水やライトの装飾が素晴らしく、つい目を輝かせてしまった。
「わぁ……すごく素敵……」
「気に入ってくれて良かったです。萌さんイタリアンが1番好きだと言っていたので。それに、ラザニアが好物と言ってましたよね。この店の名物なんですよ」
そんなことまで覚えていてくれたんだ……
メニューをお任せして、まずはワインで乾杯した。
上品にワインに口をつけるその流れるような動作を見つめながら、ふと声が漏れた。
「なんか昇さんって……やっぱり慣れてますよね。こういうの全部……」
水面に浮かぶ自分の顔を見つめて苦笑いする。
私はこの歳にして仕事ばかりで、ほとんど異性とデートなんてしてこなかったから……
慣れていなさすぎて、いちいち圧倒されている自分が情けなくなる。
なるべく悟られないように今日1日振舞ったつもりだ。
「その…なんていうか……デートに慣れてらっしゃるんだなぁと。あっ、嫌味ではないですよ?単純に、凄いなぁって……何もかも完璧で」
「よかった……」
「え?」
顔を上げてハッとした。
昇さんの恥ずかしそうな気まずそうなそんな表情を初めて見た。
「実はとても緊張していたんです。自ら進んで女性と外出するなんて初めてだったから、どう計画していいか…どんなふうにリードすればいいかとかいっぱい考えてたんですよ。失礼があったらどうしようとか…」
私は目を見開いたまま沈黙していた。
だって、そんな風にはとても見えなかったから。
「でも萌さんには完璧と言ってもらえたので……本当によかった…」
ホッとしたように眼鏡を取る昇さんに、なぜか私はキュンとしてしまった。
完全無欠っぽく見える人のこういった一面には弱い。
「それに今日は、とても楽しかったです」
「はい……私もです。今日はいろいろとありがとうございました」
「礼にはおよびませんよ。僕はあなたの夫となるのですから当然です」
サラッとそう言われ赤面する。
妻とか夫とか……自分には本当に慣れない言葉だ。いつか私もそれを自然に言える日が来るんだろうか。
前菜が運ばれてきて、私が小皿に取り分けようとするも、サッと昇さんにやられてしまった。
次の料理もその次もそうだったため、昇さんの流れるような速さに呆気に取られる。
私の出番がまるでない……。