「あの、かが…昇さん」
「はい」
「私実は、家事って苦手なんです。掃除も料理も洗濯も好きじゃなくて…」
「それなら専属の家事代行がいますし、心配要りませんよ?あと僕は料理が趣味なので、忙しくないときなら僕が作ります」
そんなすんなり返答されるとは思っていなかったから言葉に詰まった。
普通、家事が嫌だなんて言う女がいたら幻滅すると思うんだけど……
「……そっ、それから、えっと……」
もっと何か言いたい……!
考えろ私!
「あ、私朝が弱くて……起きるの苦手なんで、起こしてください」
「あの……そもそも萌さん、別に仕事を辞めても良いんですよ?」
「えっ?」
「だって経済的には全くする必要がないのだし」
さぞ当たり前のような顔してそう言われ、ハッとする。
まぁ確かにこの人ほどの財力の夫を持った場合、共働きなんて普通はなかなかないだろう。
「でも私……仕事、好きなんです」
驚いたような表情になる昇さん。
「だから、続けてもいいですか?」
「あ、それはもちろん。そっか…そうですよね……脚本家の仕事、萌さんに向いてそうですもんね」
なぜそう思うのだろうかと疑問符は浮かんだが、もちろん悪い気はしない。
「何か目標や夢があるんですか?」
「ありますよ」
「へぇ。どんな?」
「……秘密です」
「えぇ……」
初めて二人同時に笑った。
なんだかこの空気感が、不思議と懐かしい気分にさせた。
悪くない。
そう思えた。
互いの親へ紹介するよりも先に婚約……
本当にこんなことがあってよいのだろうか……と考えたりするよりも先に全てを済ませてしまった。
あとは婚姻届を出すだけなのだが、それは証人欄に互いの親のサインを貰う必要がある。
だから互いの親に挨拶し合うまでは、私たちはあくまで「婚約者」という形だ。
もちろん母には電話で伝えたが、驚くというよりも予想以上に喜ばれた。
昇さんの親御さんはというと……
てっきりどこぞの馬の骨とも分からない女と突然結婚なんて絶対に反対されるだろうと踏んでいたのだが、彼曰くそちらも問題なかったらしい。
本当か嘘か知らないけれど。