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第6話


「で…でも……あなたはどうなんですか?

あなたはなんの為に……私と……」


「立場上、独り身だと何かと不都合なのですよ。親にももちろん、散々急かされていますので」


「だとしてもっ…それは私じゃなくてもいいですよね?」


「いえ、本條萌さん。僕はあなたがいいんです。」


「……なぜ?そもそも……最初からどうして私の名前を知ってたんですか?」


「それは……」


初めて口ごもる目の前の男が、今更ながら初めて気味悪く思えた。


「本條さんは覚えてないかもしれませんが、昔僕たちは会ったことがあるんですよ」


「……えっ?」


そんなの記憶にない。

いつ?どこで?どんなふうに?

そう聞こうと口を開きかけた時、彼はフッと初めて笑った。


「それはまたいつか、おいおいお話しますね。」


「なっ……気になるじゃないですか」


「僕だって、あなたの本当の目的や本心が気になりますよ」


ドキッと鼓動が跳ねたのがわかった。

何か他にあるって、勘づかれている…?


加賀見さんは、優しげだけどどこか切なげな笑みを浮かべている。


私は目の前のシャンパンの泡を見つめた。

浮かんでは消え、浮かんでは消えを何度も繰り返すのに、一向に減らない小さな気泡……

思えば私の人生は、泡みたいだったかもしれない。

望むものは多いくせに、心のどこかでそれら全部を諦めているから消えていく。

それなのにまた同じものを繰り返し望む……そうやってのらりくらりと生きてきたんだと思う。

生きているだけで充分幸せだなんて自分に言い聞かせて……


「わかりました。」


でも、本当は全てに本気で生きたかった。

幸せを掴むためにちゃんと覚悟を持って生きたかった。


あの頃の事件の真相を知りたい。

私たち家族の全てを壊した何かがあるのなら、私の手で復讐してやりたい。

父も姉も見つけ出して、また母と私と4人で笑い合いたい。あの頃のように……。


「お互い合理的にいきましょう」


幸せを、自分の手で掴み取るんだ。

その為だったら何でもする。なんでも利用してやる。


「加賀見昇さん……」


私はグラスから目の前の男に視線を移した。


「あなたと結婚します。」


互いにグラスを持ち上げる。


カチン、と甘美な響きが鼓膜を揺すった。

それが私たちの……互いの幸せを掴むための壮絶なストーリーの幕開けになることを、この時はまだ知らなかった。


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