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ゼロの花喰い
瀬川香夜子
恋愛現代恋愛
2024年07月16日
公開日
123,857文字
完結
 人類は、ベースとなる人の形はそのままに、別の生物の特色を併発して生まれてくるようになった。付随する種族を副種族と呼び、その種族ごとにカテゴリーナンバーが振り分けられる。
 小川夏生はカテゴリーナンバーゼロ。副種族を持たずに生まれた平凡な人類だった。
 副種族をもたないことが原因で長年やっていた陸上をやめ、自分だけのなにかが欲しくて都内でも有名な女子校――代桜山女子高等学校に入学したものの現実は変わらず。
 無為な高校生活を過ごし始めていたある日、副種族によって余命短い三年生の先輩――片桐和佳に出会う。花の副種族をもち、最後は花びらになって消える運命をもつ先輩。
 なにもかも諦め、花のように息絶えようとしている彼女の姿に、夏生の副種族への思いが少しずつ変わっていき、和佳に対してもどかしさを覚えるようになっていく。

第1話

 広い校庭のトラックに、石灰でまっすぐに線が引かれている。

 体力測定のために引かれた五十メートルレーンは、すでに幾人かの生徒に踏みしめられて、ところどころが欠けていた。

 それをぼんやり眺めながら、小川夏生はスタート位置についた。

 足元から伸びるレーンは、競技場のように一・二二メートル幅に綺麗に分かれてはいないし、線だってフリーハンドだからズレもなく真っ直ぐ……とはいかない。

 聞き馴染んだ「set」の変わりに、まだ耳馴染みのない教師の「よーい」の声で姿勢を作る。スタートを告げたのは、雷管の発砲音ではなく、これも教師の声だった。

 ――ドン

 その合図にどこか気の抜けた思いがしても、それでも体は勝手にあの頃のようにフォームを作って駆けていく。

 もう二年も前に走ることは止めたはずなのに、それでもまだ、あの頃の経験は夏生の中から消えてはくれなかった。



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